【第63回】 安全保障3文書①:国家安全保障戦略

安全保障
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今回は「安保3文書①」ということで、「国家安全保障戦略」をご紹介します。

2022(令和4)年12月16日に閣議決定されました。

安保3文書は
 ①「国家安全保障戦略」
 ②「国家防衛戦略」(これまでの「防衛計画の大綱(防衛大綱)のこと」)
 ③「防衛力整備計画」
の3つのことをいいます。
(出典:国家安全保障戦略について(内閣官房)

  1. 目次
  2. Ⅰ 策定の趣旨
  3. Ⅱ 我が国の国益
  4. Ⅲ 我が国の安全保障に関する基本的な原則
  5. Ⅳ 我が国を取り巻く安全保障環境と我が国の安全保障上の課題
    1. 1 グローバルな安全保障環境と課題
    2. 2 インド太平洋地域における安全保障環境と課題
      1. ⑴ インド太平洋地域における安全保障の概観
      2. ⑵ 中国の安全保障上の動向
      3. ⑶ 北朝鮮の安全保障上の動向
      4. ⑷ ロシアの安全保障上の動向
  6. Ⅴ 我が国の安全保障上の目標
  7. Ⅵ 我が国が優先する戦略的なアプローチ
    1. 1 我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素
    2. 2 戦略的なアプローチとそれを構成する主な方策
      1. ⑴ 危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取組の展開
        1. ア 日米同盟の強化
        2. イ 自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国等との連携の強化
        3. ウ 我が国周辺国・地域との外交、領土問題を含む諸懸案の解決に向けた取組の強化
        4. エ 軍備管理・軍縮・不拡散
        5. オ 国際テロ対策
        6. カ 気候変動対策
        7. キ ODAを始めとする国際協力の戦略的な活用
        8. ク 人的交流等の促進
      2. (2) 我が国の防衛体制の強化
        1. ア 国家安全保障の最終的な担保である防衛力の抜本的強化
        2. イ 総合的な防衛体制の強化との連携等
        3. ウ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化
        4. エ 防衛装備移転の推進
        5. オ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化
      3. (3) 米国との安全保障面における協力の深化
      4. (4) 我が国を全方位でシームレスに守るための取組の強化
        1. ア サイバー安全保障分野での対応能力の向上
        2. イ 海洋安全保障の推進と海上保安能力の強化
        3. ウ 宇宙の安全保障に関する総合的な取組の強化
        4. エ 技術力の向上と研究開発成果の安全保障分野での積極的な活用のための官民の連携の強化
        5. オ 我が国の安全保障のための情報に関する能力の強化
        6. カ 有事も念頭に置いた我が国国内での対応能力の強化
        7. キ 国民保護のための体制の強化
        8. ク 国民保護のための体制の強化
        9. ケ エネルギーや食料など我が国の安全保障に不可欠な資源の確保
      5. (5) 自主的な経済的繁栄を実現するための経済安全保障政策の促進
      6. (6) 自由、公正、公平なルールに基づく国際経済秩序の維持・強化
      7. (7) 国際社会が共存共栄するためのグローバルな取組
  8. Ⅶ 我が国の安全保障を支えるために強化すべき国内基盤
    1. 1 経済財政基盤の強化
    2. 2 社会的基盤の強化
    3. 3 知的基盤の強化
  9. Ⅷ 本戦略の期間・評価・修正
  10. Ⅸ 結語
  11. おわりに・・・

目次

Ⅰ 策定の趣旨
Ⅱ 我が国の国益
Ⅲ 我が国の安全保障に関する基本的な原則
Ⅳ 我が国を取り巻く安全保障環境と我が国の安全保障上の課題
 1 グローバルな安全保障環境と課題
 2 インド太平洋地域における安全保障環境と課題
  ⑴ インド太平洋地域における安全保障の概観
  ⑵ 中国の安全保障上の動向
  ⑶ 北朝鮮の安全保障上の動向
  ⑷ ロシアの安全保障上の動向
Ⅴ 我が国の安全保障上の目標
Ⅵ 我が国が優先する戦略的なアプローチ
 1 我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素
 2 戦略的なアプローチとそれを構成する主な方策
  ⑴ 危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、
   自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取組の展開
   ア 日米同盟の強化
   イ 自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国等との連携の強化
   ウ 我が国周辺国・地域との外交、領土問題を含む諸懸案の解決に向けた取組の強化
   エ 軍備管理・軍縮・不拡散
   オ 国際テロ対策
   カ 気候変動対策
   キ ODAを始めとする国際協力の戦略的な活用
   ク 人的交流等の促進
  ⑵ 我が国の防衛体制の強化
   ア 国家安全保障の最終的な担保である防衛力の抜本的強化
   イ 総合的な防衛体制の強化との連携等
   ウ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化
   エ 防衛装備移転の推進
   オ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化
  ⑶ 米国との安全保障面における協力の深化
  ⑷ 我が国を全方位でシームレスに守るための取組の強化
   ア サイバー安全保障分野での対応能力の向上
   イ 海洋安全保障の推進と海上保安能力の強化
   ウ 宇宙の安全保障に関する総合的な取組の強化
   エ 技術力の向上と研究開発成果の安全保障分野での積極的な活用のための官民の連携の強化
   オ 我が国の安全保障のための情報に関する能力の強化
   カ 有事も念頭に置いた我が国国内での対応能力の強化
   キ 国民保護のための体制の強化
   ク 在外邦人等の保護のための体制と施策の強化
   ケ エネルギーや食料など我が国の安全保障に不可欠な資源の確保
  ⑸ 自主的な経済的繁栄を実現するための経済安全保障政策の促進
  ⑹ 自由、公正、公平なルールに基づく国際経済秩序の維持・強化
  ⑺ 国際社会が共存共栄するためのグローバルな取組
   ア 多国間協力の推進、国際機関や国際的な枠組みとの連携の強化
   イ 地球規模課題への取組
Ⅶ 我が国の安全保障を支えるために強化すべき国内基盤
 1 経済財政基盤の強化
 2 社会的基盤の強化
 3 知的基盤の強化
Ⅷ 本戦略の期間・評価・修正
Ⅸ 結語

Ⅰ 策定の趣旨

国際社会は時代を画する変化に直面している。

自由で開かれた安定的な国際秩序は、冷戦終焉以降に世界で
拡大したが、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に伴い、今、重大な挑戦に晒されている。
その中で、気候変動問題や感染症危機を始め、国境を越えて各国が協力して対応すべき諸課題も同時に生起しており、国際関係において対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代になっている。

…(中略)…

地政学的競争、地球規模課題への対応等、対立と協力が複雑に絡み合う国際関係全体を俯瞰し、外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力を含む総合的な国力を最大限活用して、国家の対応を高次のレベルで統合させる戦略が必要である。

Ⅱ 我が国の国益


我が国の主権と独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保する。そして、我が国の豊かな文化と伝統を継承しつつ、自由と民主主義を基調とする我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うする。・・・


経済成長を通じて我が国と国民の更なる繁栄を実現する。そのことにより、我が国の平和と安全をより強固なものとする。そして、我が国の経済的な繁栄を主体的に達成しつつ、開かれ安定した国際経済秩序を維持・強化し、我が国と他国が共存共栄できる国際的な環境を実現する。


自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値や国際法に基づく国際秩序を維持・擁護する。特に、我が国が位置するインド太平洋地域において、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させる。

Ⅲ 我が国の安全保障に関する基本的な原則


国際協調を旨とする積極的平和主義を維持する。その理念を国際社会で一層具現化しつつ、将来にわたって我が国の国益を守る。・・・


自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を維
持・擁護する形で、安全保障政策を遂行する。・・・


平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない。


拡大抑止の提供を含む日米同盟は、我が国の安全保障政策の基軸であり続ける。


我が国と他国との共存共栄、同志国との連携、多国間の協力を重視する。

Ⅳ 我が国を取り巻く安全保障環境と我が国の安全保障上の課題

1 グローバルな安全保障環境と課題


2013 年の国家安全保障戦略の策定以降も、グローバルなパワーの重心が、我が国が位置するインド太平洋地域に移る形で、国際社会は急速に変化し続けている。この変化は中長期的に続き、国際社会の在り様を変えるほどの歴史的な影響を与えるものとなる可能性が高い。


国際社会においては、経済発展、技術革新、人的交流、新たな文化の創出等の多くの機会と恩恵がもたらされている。・・・、他国の国益を減ずる形で自国の国益を増大させることも排除しない一部の国家が、軍事的・非軍事的な力を通じて、自国の勢力を拡大し、一方的な現状変更を試み、国際秩序に挑戦する動きを加速させている。このような動きが、軍事、外交、経済、技術等の幅広い分野での国家間の競争や対立を先鋭化させ、国際秩序の根幹を揺るがしている。・・・


現在の国際的な安全保障環境の複雑さ、厳しさを表す顕著な例

 ア
 他国の領域主権等に対して、軍事的及び非軍事的な手段を組み合わせる形で、力による一方的な現状変更及びその試みがなされている。・・・

 イ
 サイバー空間、海洋、宇宙空間、電磁波領域等において、自由なアクセスやその活用を妨げるリスクが深刻化している。特に、相対的に露見するリスクが低く、攻撃者側が優位にあるサイバー攻撃の脅威は急速に高まっている。サイバー攻撃による重要インフラの機能停止や破壊、他国の選挙への干渉、身代金の要求、機微情報の窃取等は、国家を背景とした形でも平素から行われている。・・・

 ウ
 サプライチェーンの脆弱性、重要インフラへの脅威の増大、先端技術をめぐる主導権争い等、従来必ずしも安全保障の対象と認識されていなかった課題への対応も、安全保障上の主要な課題となってきている。

 エ
 本来、相互互恵的であるべき国際貿易、経済協力の分野において、一部の国家が、鉱物資源、食料、産業・医療用の物資等の輸出制限、他国の債務持続性を無視した形での借款の供与等を行うことで、他国に経済的な威圧を加え、自国の勢力拡大を図っている。

 オ
 先端技術研究とその成果の安全保障目的の活用等について、主要国が競争を激化させる中で、一部の国家が、他国の民間企業や大学等が開発した先端技術に関する情報を不法に窃取した上で、自国の軍事目的に活用している。

 カ
 際社会全体の統治構造において強力な指導力が失われつつある。その結果、気候変動、自由貿易、軍備管理・軍縮・不拡散、テロ、感染症対策を含む国際保健、食料、エネルギー等の国際社会共通の課題への対応において、国際社会が団結しづらくなっている。

2 インド太平洋地域における安全保障環境と課題

⑴ インド太平洋地域における安全保障の概観

・・・インド太平洋地域において、我が国が、自由で開かれたインド太平洋(以下「FOIP」という。)というビジョンの下、同盟国・同志国等と連携し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現し、地域の平和と安定を確保していくことは、我が国の安全保障にとって死活的に重要である。

⑵ 中国の安全保障上の動向

中国は、「中華民族の偉大な復興」、今世紀半ばまでの「社会主義現代化強国」の全面的完成、早期に人民解放軍を「世界一流の軍隊」に築き上げることを明確な目標としている。中国は、このような国家目標の下、国防費を継続的に高い水準で増加させ、十分な透明性を欠いたまま、核・ミサイル戦力を含む軍事力を広範かつ急速に増強している。

また、中国は、我が国の尖閣諸島周辺における領海侵入や領空侵犯を含め、東シナ海、南シナ海等における海空域において、力による一方的な現状変更の試みを強化し、日本海、太平洋等でも、我が国の安全保障に影響を及ぼす軍事活動を拡大・活発化させている。さらに、中国は、ロシアとの戦略的な連携を強化し、国際秩序への挑戦を試みている。

中国は、世界第二位の経済力を有し、世界経済を牽引する国としても、また、気候変動を含む地球規模課題についても、その国際的な影響力にふさわしい更なる取組が国際社会から強く求められている。しかし、中国は、主要な公的債権国が等しく参加する国際的な枠組み等にも参加しておらず、開発金融等に関連する活動の実態も十分な透明性を欠いている。・・・

中国は、台湾について平和的統一の方針は堅持しつつも、武力行使の可能性を否定していない。さらに、中国は我が国近海への弾道ミサイル発射を含め台湾周辺海空域において軍事活動を活発化させており、台湾海峡の平和と安定については、我が国を含むインド太平洋地域のみならず、国際社会全体において急速に懸念が高まっている。

中国が、首脳レベルを含む様々なレベルでの意思疎通を通じて、国際社会と建設的な関係を構築すること、また、我が国を含む国際社会との対話と協力を重ねること等により、我が国と共にインド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定に貢献することが期待されている。

しかしながら、現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国等との連携により対応すべきものである。

⑶ 北朝鮮の安全保障上の動向

朝鮮半島においては、韓国と北朝鮮双方の大規模な軍事力が対峙している。北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄を依然として行っていない。現在も深刻な経済的困難に直面しており、人権状況も全く改善しない一方で、軍事面に資源を重点的に配分し続けている。

北朝鮮は、近年、かつてない高い頻度で、新たな態様での弾道ミサイルの発射等を繰り返し、急速にその能力を増強している。特に、米国本土を射程に含む大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルの発射、変則軌道で飛翔するミサイルを含む新たな態様での発射、発射台付き車両(TEL)・潜水艦・鉄道といった様々なプラットフォームからの発射等により、ミサイル関連技術及び運用能力は急速に進展している。

さらに、北朝鮮は、核戦力を質的・量的に最大限のスピードで強化する方針であり、ミサイル関連技術等の急速な発展と合わせて考えれば、北朝鮮の軍事動向は、我が国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている。

北朝鮮による拉致問題は、我が国の主権と国民の生命・安全に関わる重大な問題であり、国の責任において解決すべき喫緊の課題である。また、基本的人権の侵害という国際社会の普遍的問題である。

⑷ ロシアの安全保障上の動向

ロシアによるウクライナ侵略等、ロシアの自国の安全保障上の目的達成のために軍事力に訴えることを辞さない姿勢は顕著である。また、ロシアは核兵器による威嚇ともとれる言動を繰り返している。

ロシアは、我が国周辺における軍事活動を活発化させている。我が国固有の領土である北方領土でもロシアは軍備を強化しているが、これは、特にオホーツク海がロシアの戦略核戦力の一翼を担う戦略原子力潜水艦の活動領域であることが、その背景にあるとみられる。

さらに、ロシアは、中国との間で、戦略的な連携を強化してきている。特に、近年は、我が国周辺での中露両国の艦艇による共同航行や爆撃機による共同飛行等の共同演習・訓練を継続的に実施するなど、軍事面での連携が強化されている。

ロシアの対外的な活動、軍事動向等は、今回のウクライナ侵略等によって、国際秩序の根幹を揺るがし、欧州方面においては安全保障上の最も重大かつ直接の脅威と受け止められている。また、我が国を含むインド太平洋地域におけるロシアの対外的な活動、軍事動向等は、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念である。

Ⅴ 我が国の安全保障上の目標


我が国の主権と独立を維持し、我が国が国内・外交に関する政策を自主的に決定できる国であり続け、我が国の領域、国民の生命・身体・財産を守る。
そのために、我が国自身の能力と役割を強化し、同盟国である米国や同志国等と共に、我が国及びその周辺における有事、一方的な現状変更の試み等の発生を抑止する。・・・


安全保障政策の遂行を通じて、我が国の経済が成長できる国際環境を主体的に確保する。それにより、我が国の経済成長が我が国を取り巻く安全保障環境の改善を促すという、安全保障と経済成長の好循環を実現する。・・・


国際社会の主要なアクターとして、同盟国・同志国等と連携し、国際関係における新たな均衡を、特にインド太平洋地域において実現する。・・・


国際経済や、気候変動、感染症等の地球規模課題への対応、国際的なルールの形成等の分野において、多国間の協力を進め、国際社会が共存共栄できる環境を実現する。

Ⅵ 我が国が優先する戦略的なアプローチ

1 我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素

(1)
第一に外交力である。
国家安全保障の基本は、法の支配に基づき、平和で安定し、かつ予見可能性が高い国際環境を能動的に創出し、脅威の出現を未然に防ぐことにある。・・・

(2)
第二に防衛力である。
防衛力は、我が国の安全保障を確保するための最終的な担保であり、我が国を守り抜く意思と能力を表すものである。・・・

防衛力により、我が国に脅威が及ぶことを抑止し、仮に我が国に脅威が及ぶ場合にはこれを阻止し、排除する。・・・

(3)
第三に経済力である。
経済力は、平和で安定した安全保障環境を実現するための政策の土台となる。我が国は、世界第三位の経済大国であり、開かれ安定した国際経済秩序の主要な担い手として、自由で公正な貿易・投資活動を行う。・・・

(4)
第四に技術力である。
科学技術とイノベーションの創出は、我が国の経済的・社会的発展をもたらす源泉である。そして、技術力の適切な活用は、我が国の安全保障環境の改善に重要な役割を果たし、気候変動等の地球規模課題への対応にも不可欠である。・・・

(5)
第五に情報力である。
急速かつ複雑に変化する安全保障環境において、政府が的確な意思決定を行うには、質が高く時宜に適った情報収集・分析が不可欠である。・・・

2 戦略的なアプローチとそれを構成する主な方策

⑴ 危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取組の展開

ア 日米同盟の強化

日米の戦略レベルで連携を図り、米国と共に、外交、防衛、経済等のあらゆる分野において、日米同盟を強化していく。

イ 自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国等との連携の強化

我が国は、インド太平洋地域に位置する国家として、日米同盟を基軸としつつ、日米豪印(クアッド)等の取組を通じて、同志国との協力を深化し、FOIPの実現に向けた取組を更に進める。

ウ 我が国周辺国・地域との外交、領土問題を含む諸懸案の解決に向けた取組の強化

・・・中国が力による一方的な現状変更の試みを拡大していることについては、これに強く反対し、そのような行為を行わないことを強く求め、冷静かつ毅然として対応する。また、中国の急速な軍事力の強化及び軍事活動の拡大に関しては、透明性等を向上させるとともに、国際的な軍備管理・軍縮等の努力に建設的な協力を行うよう同盟国・同志国等と連携し、強く働きかける。そして、日中間の信頼の醸成のため、中国との安全保障面における意思疎通を強化する。加えて、中国との間における不測の事態の発生を回避・防止するための枠組みの構築を含む日中間の取組を進める。・・・

台湾との関係については、我が国は、1972 年の日中共同声明を踏まえ、非政府間の実務関係として維持してきており、台湾に関する基本的な立場に変更はない。台湾は、我が国にとって、民主主義を含む基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である。また、台湾海峡の平和と安定は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素であり、両岸問題の平和的解決を期待するとの我が国の立場の下、様々な取組を継続していく。

韓国は、地政学的にも我が国の安全保障にとっても極めて重要な隣国である。北朝鮮への対応等を念頭に、安全保障面を含め、日韓・日米韓の戦略的連携を強化していく。・・・
我が国固有の領土である竹島の領有権に関する問題については、我が国の一貫した立場に基づき毅然と対応しつつ、国際法にのっとり、平和的に紛争を解決するとの方針に基づき、粘り強く外交努力を行う。

北朝鮮による核・ミサイル開発に関しては、米国及び韓国と緊密に連携しつつ、地域の抑止力の強化、国連安保理決議に基づくものを含む対北朝鮮制裁の完全な履行及び外交的な取組を通じ、六者会合共同
声明や国連安保理決議に基づく北朝鮮の完全な非核化に向けた具体的行動を北朝鮮に対して求めていく。・・・
とりわけ、拉致問題については、時間的な制約のある深刻な人道問題であり、この問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、一日も早い全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しに向けて全力を尽くす。

ロシアとの関係については、インド太平洋地域の厳しい安全保障環境を踏まえ、我が国の国益を守る形で対応していく。・・・対露外交上の最大の懸案である北方領土問題については、領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針は不変である。

エ 軍備管理・軍縮・不拡散

我が国周辺における核兵器を含む軍備増強の傾向を止め、これを反転させ、核兵器による威嚇等の事態の生起を防ぐことで、我が国を取り巻く安全保障環境を改善し、国際社会の平和と安定を実現する。・・・

オ 国際テロ対策

・・・国際テロ対策を推進し、また、原子力発電所等の重要な生活関連施設の安全確保に関する我が国国内での対策を徹底する。・・・

カ 気候変動対策

・・・同盟国・同志国を含むあらゆるステークホルダーと連携して、国内外での取組を主導していく。具体的には、2030 年度において温室効果ガスを 2013 年度から 46%削減、2050 年までのカーボンニュートラル実現に向けた、再生可能エネルギーや原子力の最大限の活用を始めとするエネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出等を通じ、脱炭素社会の実現に向けて取り組む。・・・

キ ODAを始めとする国際協力の戦略的な活用

ク 人的交流等の促進

(2) 我が国の防衛体制の強化

ア 国家安全保障の最終的な担保である防衛力の抜本的強化

・・・
宇宙・サイバー・電磁波の領域及び陸・海・空の領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により自衛隊の全体の能力を増幅させる領域横断作戦能力に加え、侵攻部隊に対し、その脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力等により、重層的に対処する。また、有人アセットに加え、無人アセット防衛能力も強化すること等により、様々な防衛能力が統合された防衛力を構築していく。さらに、現有装備品を最大限有効に活用するため、可動率向上や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設の強靭化により、防衛力の実効性を一層高めていくことを最優先課題として取り組む。

我が国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、スタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力である。

近年、我が国周辺では、極超音速兵器等のミサイル関連技術と飽和攻撃など実戦的なミサイル運用能力
が飛躍的に向上し、質・量ともにミサイル戦力が著しく増強される中、ミサイルの発射も繰り返されており、我が国へのミサイル攻撃が現実の脅威となっている。こうした中、今後も、変則的な軌道で飛翔するミサイル等に対応し得る技術開発を行うなど、ミサイル防衛能力を質・量ともに不断に強化していく。・・・

このため、相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すな
わち反撃能力を保有する必要がある。

この反撃能力とは、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自
衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力をいう。・・・

この反撃能力については、1956 年2月 29 日に政府見解として、憲法上、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としたものの、これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力に当たるものである。

この政府見解は、2015 年の平和安全法制に際して示された武力の行使の三要件の下で行われる自衛の措置にもそのまま当てはまるものであり、今般保有することとする能力は、この考え方の下で上記三要件を満たす場合に行使し得るものである。

この反撃能力は、憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではなく、武力の行使の三要件を満たして初めて行使され、武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許
されないことはいうまでもない。

本戦略策定から5年後の 2027 年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する。さらに、おおむね 10 年後までに、より早期かつ遠方で我が国への侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する。さらに、今後5年間の最優先課題として、現有装備品の最大限の有効活用と、将来の自衛隊の中核となる能力の強化に取り組む。

本戦略を踏まえ、国家防衛戦略及び防衛力整備計画に基づき実現するとともに、その財源についてしっかりした措置を講じ、これを安定的に確保していく。

・・・2027 年度において、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組をあわせ、そのための予算水準が現在の国内総生産(GDP)の2%に達するよう、所要の措置を講ずる。

イ 総合的な防衛体制の強化との連携等

・・・このような考えの下、防衛力の抜本的強化を補完し、それと不可分一体のものとして、研究開発、公共インフラ整備、サイバー安全保障、我が国及び同志国の抑止力の向上等のための国際協力の四つの分野における取組を関係省庁の枠組みの下で推進し、総合的な防衛体制を強化する。
これに加え、地方公共団体を含む政府内外の組織との連携を進め、国全体の防衛体制を強化する。

ウ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化

エ 防衛装備移転の推進

オ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化

(3) 米国との安全保障面における協力の深化

・・・日米の役割・任務・能力に関する不断の検討を踏まえ、日米の抑止力・対処力を強化するため、同盟調整メカニズム(ACM)等の調整機能を更に発展させつつ、領域横断作戦や我が国の反撃能力の行使を含む日米間の運用の調整、相互運用性の向上、サイバー・宇宙分野等での協力深化、先端技術を取り込む装備・技術面での協力の推進、日米のより高度かつ実践的な共同訓練、共同の柔軟に選択される抑止措置(FDO)、共同の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動、日米の施設の共同使用の増加等に取り組む。その際、日米がその能力を十分に発揮できるよう、情報保全、サイバーセキュリティ等の基盤を強化する。・・・

(4) 我が国を全方位でシームレスに守るための取組の強化

ア サイバー安全保障分野での対応能力の向上

イ 海洋安全保障の推進と海上保安能力の強化

ウ 宇宙の安全保障に関する総合的な取組の強化

エ 技術力の向上と研究開発成果の安全保障分野での積極的な活用のための官民の連携の強化

オ 我が国の安全保障のための情報に関する能力の強化

カ 有事も念頭に置いた我が国国内での対応能力の強化

キ 国民保護のための体制の強化

ク 国民保護のための体制の強化

ケ エネルギーや食料など我が国の安全保障に不可欠な資源の確保

(5) 自主的な経済的繁栄を実現するための経済安全保障政策の促進

(6) 自由、公正、公平なルールに基づく国際経済秩序の維持・強化

(7) 国際社会が共存共栄するためのグローバルな取組

Ⅶ 我が国の安全保障を支えるために強化すべき国内基盤

1 経済財政基盤の強化

・・・経済成長が我が国の安全保障の更なる改善を促すという安全保障と経済成長の好循環を実
現する。・・・

2 社会的基盤の強化

・・・そして、自衛官、海上保安官、警察官など我が国の平和と安全のために危険を顧みず職務に従事する者の活動が社会で適切に評価されるような取組を一層進める。さらに、これらの者の活動の基盤となる安全保障関連施設周辺の住民の理解と協力を確保するための施策にも取り組む。・・・

3 知的基盤の強化

・・・安全保障分野における政府と企業・学術界との実践的な連携の強化、偽情報の拡散、サイバー攻撃等の安全保障上の問題への冷静かつ正確な対応を促す官民の情報共有の促進、我が国の安全保障政策に関する国内外での発信をより効果的なものとするための官民の連携の強化等の施策を進める。

Ⅷ 本戦略の期間・評価・修正

国家安全保障戦略は、その内容が実施されて、初めて完成する。本戦略に基づく施策は、国家安全保障会議の司令塔機能の下、戦略的かつ持続的な形で適時適切に実施される。さらに、安全保障環境や本戦略に基づく施策の実施状況等は、国家安全保障会議が定期的かつ体系的な評価を行う。本戦略はおおむね 10 年の期間を念頭に置き、安全保障環境等について重要な変化が見込まれる場合には必要な修正を行う。

Ⅸ 結語

歴史の転換期において、我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の下に置かれることになった。将来の国際社会の行方を楽観視することは決してできない。

・・・

希望の世界か、困難と不信の世界かの分岐点に立ち、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の下にあっても、安定した民主主義、確立した法の支配、成熟した経済、豊かな文化を擁する我が国は、普遍的価値に基づく政策を掲げ、国際秩序の強化に向けた取組を確固たる覚悟を持って主導していく。

おわりに・・・

今回は「安保3文書①」の中でも「国家安全保障戦略」をご紹介しました。

反撃能力」が初めて明記されたことが注目を集めました。
この反撃能力とは、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力をいう。
と定義されました。

「相手国の『弾道ミサイル等による攻撃』の着手」に関するその具体的内容の説明を求めるような議論も話題になりました。

一方で、反撃能力を持つことは通常ならば否定されないでしょう。
加えて、「反撃能力を持つこと」と、それを「行使すること」との間にある性質は
防衛上、外交上、政治上でまったく異なっています。

能力を持つことは防衛上の要請に近いでしょうし、
最初の1撃に係る反撃能力を行使することに関しては、
日本においてはきわめて政治上の要請という性質が強くなるのではないでしょうか。
また、次弾以降の反撃能力の行使は再び防衛上の要請に近くなるのかもしれません。

ここの部分が入り乱れてしまうと、手の内を公開するような話にもなり得ることから、
「反撃能力はもちましょう」
「反撃能力の行使に関する詰めの議論と規定・基準はしっかりと定めておきます。」
といったような整理が大切なのかもしれません。

筆者としては、
「これこれこういう状況になれば反撃能力を行使します。」
というような主旨で政府より国民に対

して具体的・丁寧な説明として行われるよりは、
「反撃能力ですから、相手国の攻撃(着手を含みます)があれば行使します。」
といったような、具体性を含まない内容の説明の方が安心できます。
なぜなら、
相手国にとってみると「これこれこういう状況になれば」ではない状況
つまり
「前提とする状況ではない抜け穴的状況を研究して相手国は攻撃してくる」
というのが常とうの考え方だからです。
その上で、国際法や国内法に反するような、
いわゆる、あれこれ理由をつけて(某戦争の「大量破壊兵器情報の真実ではない情報」のような)
「先制攻撃」を行ってしまうようなケースへの備えを入念に検討しておくべきという考え方です。
反対し過ぎて詰めの議論を公開してしまうと、これもまた
骨抜きで玉虫色の結果になってしまうことがとても怖いと感じています。
侃々諤々な議論を心から期待しています。

加えて、「対核戦略Counter Nuclear Strategy」という概念にも言及しておきたいと思います。
本記事の執筆時点では、現状として「対核戦略」という用語は存在していないようです。
(CiNii調べで検索結果0件)
定義:「核戦略に対抗する戦略」という意味としておきます(暫定です)。
狭義:核使用防衛(核・核兵器使用からの防衛)
広義:核脅威防衛(核・核兵器によるあらゆる脅威の低下・無力化)
これらの定義は、今後、研究が進むことで変更することがあります。

知った「今がスタートライン!」です。

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