今回は「大戦の口火⑧」ということで「台湾有事」の8回目です。
計9回にわたりシリーズ化してお伝えしています。
本シリーズでお伝えする内容は、戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した
「The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan」
(次の大戦の口火:中国による台湾進攻の図上戦争から)
(発表:2023年1月9日)を参照しています。
- 第7章提言
- 総論
- (1)政治と戦略
- 米国の戦争計画と政治的現実の間に根本的な断絶が生じる可能性がある。
- 指揮官は、かつて経験したことのないような大量の死傷者が出ても、作戦を継続し、前進する必要があります。
- いったん紛争が始まれば、台湾の孤立は「ウクライナ・モデル」のような状態になるわけではない。
- 台湾は中国に艦対艦、空対空で対抗できないので、台湾は、「ジャベリンやスティンガーといった機敏で隠蔽性の高い兵器」に重点的に投資することを提案している。
- したがって、米空軍は、中国本土上空を飛ぶことを目的とした戦力構造を避けなければならない。
- 中国の防衛圏内で活動することの問題は克服困難なものであった。
- 偉大な戦略家トーマス・シェリングは、「優れた抑止力は、優れた標的になり得る」と述べている。
- 中国の地上発射ミサイルの在庫が尽きるまで 日米の水上艦船が台湾に接近するのは危険すぎる。
- 米海軍は、CSGやSAGに随伴できる救難艦を開発する必要がある。
- 航空機の損失の9割は地上での出来事だった。
- おわりに・・・
第7章提言
総論
本章では、上記の結果および戦争観の分析から得られた提言を述べる。
その目的は、政策立案者が中国の台湾侵略能力の高まりに米国がどのように対応すべきかを検討する際の一助となることである。
台湾を防衛する決定を下すかどうかにかかわらず、これらの提言に従えば、意思決定者に柔軟性を与えることができる。
これらの提言は米中競争のすべての側面に対応するものではないが(他の多くの要因も関係する)、これらの提言は追求する価値がある。侵攻は最も危険なシナリオである。
さらに、提言の多くは他のシナリオにも適用可能である。例えば、台湾の封鎖や南シナ海での紛争などである。
これらの提言は、(1)政治と戦略、(2)ドクトリンと態勢、(3)兵器とプラットフォームの3つのカテゴリーに整理されている。
(1)政治と戦略
このゲームは軍事作戦を中心に展開されたが、いくつかの政治的、戦略的な洞察が明らかになってきたことで、政策的な意味合いを持つことが明らかになりました。
日本との外交・軍事関係の深化を優先させる。
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戦争計画の前提を明確にする。
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米国の戦争計画と政治的現実の間に根本的な断絶が生じる可能性がある。
台湾に地上軍を駐留させることが政治的に現実的でないとしても、軍相互の調整を改善することは重要である。
これには、台湾の参加拡大、共同防衛作戦のコンセプトを開発するための国家横断的な計画グルー プの結成などが考えられる。また、共同防衛作戦のコンセプトを開発するための国家横断的な計画グループの結成も含まれる。
このような平時の活動が、戦時の活動を円滑にする。
このような活動は、特に台湾において、短中期的に紛争が起こりうると米国が考えている場合、緊急に必要となる。
米国はまた、部隊を駐留させることなく、装備や弾薬を台湾に事前配備することもできる。
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さらに、米国は危機の際に何をすべきかを決めるのに時間がかかりすぎるのもよくない。
米国が参戦を遅らせれば遅らせるほど、戦いはより困難になる。
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指揮官は、かつて経験したことのないような大量の死傷者が出ても、作戦を継続し、前進する必要があります。
すべての軍隊は、死傷者の認識を訓練プログラムに組み入れ、大国間の紛争における安全な後方地域は存在しないんだということを強調すべきである。
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本土を攻撃することを計画してはならない。
中国本土への攻撃は、エスカレーションの重大なリスクとなる。
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台湾の地上軍を強化する。
米国は台湾に地上軍をタイムリーに投入することはできないだろう。
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いったん紛争が始まれば、台湾の孤立は「ウクライナ・モデル」のような状態になるわけではない。
したがって、米国は台湾が十分な軍需品と武器を獲得することを奨励すべきである。
多くの軍需品は、台湾が独自に備蓄することが可能であろう。
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台湾は中国に艦対艦、空対空で対抗できないので、台湾は、「ジャベリンやスティンガーといった機敏で隠蔽性の高い兵器」に重点的に投資することを提案している。
特に重要なのは、台湾に地上発射型ミサイル「ハープーン」を供給するという現在の契約を履行することである。・・・
米空軍のドクトリンと調達を再構築し、地上での脆弱性に対処する。
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中国本土の上空を飛行する計画は立ててはならない。
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したがって、米空軍は、中国本土上空を飛ぶことを目的とした戦力構造を避けなければならない。
海兵隊沿岸連隊と陸軍マルチドメイン・タスクフォースの限界を認識し、その数に上限を設定する。
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このシミュレーションゲームでは、2026年までに海兵隊が沖縄にMLRを、ハワイにMLRを配備することを想定していた。
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これらの部隊(MLR と MDTF)は戦闘に貢献することができたが、ほとんどのシナリオで はどちらも重要な役割を果たせなかった。
中国の防衛圏内で活動することの問題は克服困難なものであった。
いくつかのシミュレーションゲームにおいて、米軍は MLR を空路または海路で台湾に移動させようとしたが、いずれの場合も中国側の広大な防衛ラインを通過しようとした際に、部隊と輸送力がいずれも壊滅状態になった。
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脆弱性を生むような危機的な展開は避ける。
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偉大な戦略家トーマス・シェリングは、「優れた抑止力は、優れた標的になり得る」と述べている。
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中国の地上発射ミサイルの在庫が尽きるまで 日米の水上艦船が台湾に接近するのは危険すぎる。
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船舶の損傷や複数の撃沈があった場合に備え、救助メカニズムを開発する。
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米海軍は、CSGやSAGに随伴できる救難艦を開発する必要がある。
また、沈没した船からの船員の救助や、墜落した航空機からの搭乗員の救助に役立つ水陸両用哨戒機の取得を検討することも考えられる。
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航空機の損失の9割は地上での出来事だった。
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おわりに・・・
今回は「大戦の口火⑧」ということで「台湾有事」の8回目でした。
「提言」という章で、
(1)政治と戦略
(2)ドクトリンと態勢
(3)兵器とプラットフォーム
の3つのカテゴリーで記載されていました。(今回は多くを省略しています。)
戦闘による損耗は、双方にとって非常に大きなものになること、
ひとたび戦果の口火を切れば、
大国 対 大国 の様相になることが書かれていました。
とはいえ、米軍はけっして有利な戦いをすることはできず、
戦闘加入のタイミングも即座にはできません。
また、後背地に本土を抱える中国を相手に、
日本やグアムなどの「島」を根拠地とする米軍にとっては、
これはもう、たいへん不利な戦いを強いられることは間違いないようです。
航空戦力、艦船、兵員が、
例えスペックにおいても、数においても圧倒的に優れていたとしても、
台湾地域において、戦闘を継続して、
なおかつ、有意性を保つことはたいへん厳しいものになる。
といわざるを得ないようです。
その危機感をもっているアメリカは、
現在、たいへん急ピッチで ”さまざまな” 準備を進めています。
台湾における中国とアメリカの軍事衝突とは、
第二次世界大戦における、日本とアメリカ・連合軍との軍事衝突と比べることができないくらい、
中国大陸の地政学的価値の有意性を見せつけることになるでしょう。
そうした、地政学的不利な状況を克服した戦術を準備するとともに、
それら戦術を展開する必要のないくらいの戦略を準備することが、
アメリカには至上命題になっていると考えられます。
アメリカはなぜ台湾にコミットメントするのか?
それは、アメリカが台湾に対するコミットメントする究極の本音は
やはり、
「アメリカそのものの存立を左右するから」ということに他ならないのではないでしょうか。
一見すると、あるいは、直観的には
「台湾がアメリカの存立を左右するのか?」
という受け止めが一般的です。
しかし現実は、
「アメリカの存立には台湾がカギになっている。」
と筆者はあらゆる情報を総合しながら観ています。
アメリカ1国ではもちろん対処できない予測ですから、
関係国の急ピッチな体制構築が、
望まない戦闘の回避につながることは間違いないようです。
知った「今がスタートライン!」です。