【第26回】 流域治水:洪水への備えは新たな段階に!「流域治水プロジェクト」は始動しています。

ハザードマップ
スポンサーリンク

大雨がもたらす被害はとても甚大です。

今回は、「流域治水」をご紹介します。
これまで「【第3回】川の防災情報」において「流域」の定義を説明しました。

「流域治水」とは、大雨による被害をできるだけ小さく、
そして、早期復旧・復興を目指した対策ということになります。

流域治水

流域治水とは

国は、近年の気候変動による降雨量の増加海面水位の上昇といった変化をふまえ、これまでの計画を見直しました。

これまでの計画では、洪水、内水氾濫、土砂災害、高潮・高波等から被害を防ぐため、過去の降雨、潮位などに基づいて作成されてきました。

しかし、これでは、整備を完了したとしても、実質的に目的を達成できないということがわかってきました。

そこで、見直しが行われることになりました。

説明では、「流域治水とは、気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化等を踏まえ、堤防の整備、ダムの建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方です。」(出所:「流域治水」の基本的な考え方、国土交通省)とあります。

近年の気候変動による「降雨量の変化」

図1は、近年の気候変動による降水量の増加を示したものです。

図1.1時間降水量50mm以上の年間発生数(出所:国土交通省)

統計的な分析から、1時間降水量50mm以上の年間発生回数でみた場合、
最近10年間の平均251回に比べて、過去10年間の平均174回から、
約1.4倍の発生回数の増加という結果が示されています。(出所:国土交通省)

近年の気候変動による「氾濫危険水位を超過する河川の変化」

図2は、近年の気候変動による氾濫危険水位を超過する河川数の変化を示したものです。

図2.氾濫危険水位を超過する河川の発生数(出所:国土交通省)

「国管理河川」と「都道府県管理河川」として整理されています。
その定義は割愛しますが、近年発生数は増加傾向にあると国はみています。(筆者も)

令和元年の水害被害額が統計開始以来最大に

「令和元年の水害被害額が統計開始以来最大に」となっています。

令和元年の1年間を見ても、水害による被害額は暫定値で
約2兆1,500憶円です。(過去最大

令和元年東日本台風(台風19号)の被害額でみても、
約1兆8,600憶円です。(過去最大

「流域治水」の推進

「流域治水」は3つの柱で考えられています。

 ①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策
 ②被害対象を減少させる対策
 ③被害の軽減・早期復旧・復興の対策

図3は、「流域治水」のおおまかなイメージ図です。(出所:国土交通省)

図3.流域治水の推進(出所:国土交通省)

それでは、具体的にみていきましょう。

①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策

 ▶ ダムの建設・再生:ダムのかさ上げによる、貯水量を増やす取り組みです。
           ダムに水をためる能力がアップすれば、
           下流域の河川水位を下げる効果につながります。

 ▶ 利水ダムの事前放流:降雨予測をもとに、ダムへの雨水流入量を予測します。
            予測に基づき、事前にダムの水を放流してしまいます。
            ダムの容量をあけておきます。

 ▶ 放水路の整備:大雨のとき、川の水を地下トンネルに集める取り組みです。
          関東の「中川」で取り組まれています。
          大雨のとき、川の水を別の河川へ排水する取り組みもあります。
          関東の「中川、倉松川」の水を「江戸川」へ排水できます。

 ▶ 遊水地の整備:大雨のとき、川の堤防の一部を低くして水をあふれさせ、
          遊水地にためる取り組みです。
          普段は、公園、運動場などに利用されています。

 ▶ 霞提の整備:堤防に切れ目がある堤防です。
         川の増水に伴い、切れ目の部分から水を堤防の外へ排水できます。
         堤防が「あるふれる」「決壊する」ことを防ぎます。
         「決壊」による被害は、「急激」かつ「破壊力が大きい」です。
         それを軽減することができます。
         一方で、浸水被害を受けるリスクがより高まる土地が発生してしまいます。
         そういった土地への配慮や補償は必要です。

 ▶ 雨水貯留施設の整備:雨水を一時的に貯めたり地下に浸透させる取り組みです。
             下水道・河川への雨水流出量を抑制できます。 
             例…東京都「和田弥生幹線」

 ▶ 雨水貯留浸透施設の整備:雨水を地中に浸み込ませる
               雨水が浸み込みやすい歩道
               住宅に降った雨水をためるタンク
               住宅に降った雨水を地中に浸み込ませる
               といった取り組みです。

 ▶ ため池等の治水利用:大雨が来る前にため池の水を放流してしまう取り組みです。

 ▶ 粘り強い河川堤防:堤防の強化をはかる取り組みです。

②被害対象を減少させる対策

 ▶ 二線提や輪中提の整備(図4)(出所:国土交通省)

図4.二線提と輪中提(出所:国土交通省)

 ▶ リスクの低いエリアへの誘導、住まい方の工夫:ハイリスクからの移動
    ・土地利用規制
    ・移転促進
    ・不動産取引時の水害リスク情報提供ほか

 ▶ 自然堤防の保全

③被害の軽減・早期復旧・復興の対策

 ▶ 排水門等の整備:本川があふれると支川もあふれます。
           本川からの支川への逆流です。(バックウォーター現象)
           支川の本川への合流地点に排水門を設けます。
           逆流を防ぎながら支川の水を本川に流せるようにしています。
           東京には海抜ゼロメートル地帯があります。
           排水門や排水機場は、高潮被害も軽減してくれます。

 ▶ 企業等の水害対策:企業による水災害への備えです。
            例…地下鉄入口の止水板
              非常用発電機の(浸水想定外での)設置
              防災ポータルによる情報発信
              ハザードマップポータルサイト
              マイ・タイムラインの作成
              「逃げなきゃコール」(大切な人への避難の呼びかけ)

おわりに・・・

今回は「流域治水」についてとり上げました。
降雨による被害は、年々増加と激甚化が明らかでした。
とは言いましても、私たちは主に、水が流れてくる平地・平野で暮らしています。
水の被害は避けることができません。
平地・平野の多くは、過去に、雨水で浸食(洗い流)されてきたという歴史があります。
その歴史的経緯を考えた中で、
どのように身の安全を確保し、被害を小さくしていくか?
そういった取り組みの紹介でした。
ハードとソフトをそれぞれで、あるいは、融合した形でとられる取り組みでした。
とても頭が下がります。

年々、降雨による災害の発生は激甚化しているという話でした。
今回の「流域治水」の考え方にもまた次の試練がやってくるのかもしれません。
それは、想定を超え続ける降雨がやってきてしまうことです。

一例としてですが、
前線の長期停滞に伴う長雨が続く中、
線状降水帯も発生して、集中豪雨が発生、
記録的短時間の大雨の状態も続いてしまい、

記録的長時間の大雨の状態が実質化、
特定の流域に降雨が集中、
国管理や都道府県管理河川における狭隘部で大規模な土砂災害が発生し、
大規模な土砂ダム状態となり、
土砂ダムの上流域では想定をはるかに超える浸水深に到達してしまう。

そういったケースです。

「被害を面積の広狭や地域」でみるのか?
「経済被害のレベル」でみるのか?
…といったリスクの対象に何を設定するかによって、
治水計画の方針は大きく異なってきます。その意味で、
大阪府と奈良県とを流れる「大和川」はひとつの検証例になるのかもしれません。

例えばですが、「亀の瀬峡谷」や「八幡神社」付近を例にみてみましょう。
ここは「亀の瀬狭窄部」と当局は表現しています。
これまでの河川整備計画では、上下流と本支川の「治水安全度のバランス」をみながら、
河川整備を推進してきました。

歴史的には、1704年に大和川が付け替えれ、下流部は実のところ人工河川です。
下流域は、大阪の人口・資産が密集するというリスクを抱えています。
上流部は、156本の支川が大和川(本川)に流れ込み、
「亀の瀬峡谷」(亀の瀬狭窄部)に向けて集まっています。
「亀の瀬峡谷」では、1931~1932年、1967年など、大規模な地滑り被害が発生しています。
大阪府内の流域エリアと、奈良県内流域エリアの双方のバランスを見ているわけです。
「亀の瀬狭窄部」の抜本的な治水対策として、
もしも狭窄部の大規模な拡幅工事を行えば、
大阪府にとって水害リスクが上昇することになります。
一方で、現状のままですと、奈良県内の災害リスクが大きく低減できないだけでなく
多発的に災害が発生し、災害種別も複合的に起こってしまった場合、
想定と想像を超える、たいへん深刻な事態が発生する可能性があります。
この類のシミュレーションは、現在のところ確認されていません。
(まさに本物の想定外のはなしです。)

それでは、上記(緑字)で書きましたケースを仮に想定することにしてみましょう。
すると、「亀の瀬狭窄部」が土砂ダムになるという仮定になります。
大和川の奈良県流域では、想定を超え浸水深が大幅に高くなると考えられます。
大和川の流出口が閉塞してしまうからです。
こうして、避難するにもかなり難しい判断や対応が求められることになります。
特に災害時要援護者にとっては、深刻な事態となることが想定されます。
過去の経験による避難が通用しないレベルになってしまう可能性があるということです。

こういった現象にならないよう、国や都道府県は治水対策を推進しているわけですが、
「降雨量の変化」からみてもわかるように、
想定を超える対策への検討もかなりの程度で必要になってくるのではないでしょうか。

労働災害/危機管理の原則理論のひとつに「【第31回ハインリッヒの法則」があります。
たいへん有名のため、知っている人も多いのかもしれません。
過去に「亀の瀬狭窄部」で起こった土砂災害に置き換えてみます。
平素の河川の水位上昇が「ヒヤリハット」
氾濫危険水位を超える現象や氾濫発生のほか、
1931~1932年、1967年などの大規模な地滑り被害が「軽微な災害」とすると、
その先にある「1件の重大な災害」はどういった事態になるのか?のお話しでした。
「【第37回トルネードモデル竜巻理論)」からも自然災害のエスカレーションを想定することができます。
ちなみにですが、重大性の範囲をどう定義するかによってもその進行の段階は変わってきます。
本記事では、現施策「流域治水」の紹介とともに、
現施策がむかえるかもしれない「試練」を含めて紹介しました。

水害への備えは、さまざまな当事者・当局で推進されます。
その意味で、引き続きさまざまな備えが進んで行くことを願っています。
知った「今がスタートライン!」です!

タイトルとURLをコピーしました