【第61回】 グラデーション型選択肢:「10-0」「100-0」「白か黒か」「右か左か」「〇or✕」「賛成or反対」ではない選択肢設定の在り方

原則(principle)
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今回は「グラデーション型選択肢」(The choices of gradational type)のお話しです。

社会生活をしていると、職場や学校やさまざまな団体や友人関係でもそうですが、
二者択一」という選択肢設定に出会います。

二者択一」「…者択一」などがあり、それ自体は問題ないのですが、

選択」する、あるいは、「設定」する際に、
必ずしも両極の選択肢であることが問題・課題の解決になってくれないことがあることに気づいた人もいるかもしれません。

そういった「どちらかを選ぶ」という様式ではけっして解決しない課題は実際にはありまして、

今回はこれまでの科学で解明された「自然法則」からみえてくる、
そういった「バラつき」「分布」という見方をしてみましょう。

「バラつき」「分布」型選択肢の設定が課題の解決に役立つこともあるのではないでしょうか。

医療「医学、薬学、微生物学」の分野からみえてくるヒントとは=ヒント①

図1.抗菌薬のスペクトル一覧
(出所:東京医科大学病院感染症科(2016),症例から考える感染症診療,p26)

図1は、「抗菌薬のスペクトル一覧」です。
「抗菌薬」とは、化学療法の薬ひとつです。
細菌の増殖を抑えたり、殺菌する働きをもっています。

「スペクトル」とは、ある性質についての「分布」を表したもの。です。

抗菌薬は、さまざまな性質をもつ細菌に対して、さまざまな種類があります。
その効果・効能を抗菌薬の種類別に一覧表にまとめたものが図1です。

さまざまな細菌に対して、それらがもつ性質をふまえ、
さまざまある抗菌薬がどの対象・性質に効果があるのか?一覧でみることができます。

つまり、ひとつの抗菌薬で「すべてに効き目がある」というわけではもちろんありません。
抗菌薬によって、効き目のある範囲や強さに違いがあります。

これが一つ目の自然の法則からみえてくるヒント①です。

医療「国際疾病分類ICD-11、精神疾患の診断・統計マニュアルDSM-5」の分野からみえてくるヒントとは=ヒント②

発達障害の特性分布

図2.発達障害の特性分布図(出所:厚生労働省,発達障害の理解のために

図2は「発達障害の特性分布図」です。
「発達障害」とは、
「発達障害者支援法において、『発達障害』は『自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの』」と定義されています。(出所:厚生労働省,発達障害の理解のために

自閉スペクトラム症「自閉スペクトラム概念図」

図3.自閉スペクトラム概念図
(出所:厚生労働省,発達障害の理解のためにをもとに筆者作成)

図3は、「自閉スペクトラム概念図」です。
すでに学術的に開発された調査項目に基づき、スコア化された評価手法が確立しています。
とは言いましても、明確に詳細ポイントを診断できるとは限らないのが現状です。

A、B、Cという軸があり、
 ▶「知能
 ▶「社会性
 ▶「コミュニケーション性
 ▶「想像力/常同行動
などの特徴をそれぞれの軸にあてはめます。
(図3は3軸で表現しました。実際には4~数軸での表現になると考えていますが、ビジュアル的・便宜的に3軸にしました。)

すると、「αさん」や「βさん」のようにスコア値がプロットされるというものです。

人間の特徴はさまざまです。
多くの人が「基準値」や「診断名のない範囲」(病名のつかない領域)として定義している値は、
もっとも多くの人が存在している「分布の集団」に該当しているといえます。

言い換えると、
少数の人が分布している「基準値外」や「診断名のある範囲」(病名のつく領域)として定義する値は
分布の集団」の範囲から出たところにあるケースと言えます。

つまり、全体像としてみると、
いろいろな性質としてさまざまな分布の中で存在していることが、
わたしたち「人」であるということが理解できます。

したがって、さまざまな分布のどこに位置している、あるいは、していないということで、
「偏見」「差別」など不当な扱いへと進んでいけません。
特徴に応じた「理解」や「関り方」があるべき形で進む必要があります。
個人としてだけでなく、集団や社会として、
環境や制度といった整備や構築が求められているのではないでしょうか。

人間対人間の関係、
職場や学校などの集団の中での関係性や
みんなにとっての活躍の機会、
まちづくりなどの生活環境の整備の在り方、
社会保障制度の望ましい整備の姿、
SDGsでいうところの「多様性」をほんとうに大切にしなければなりません。

これが二つ目の自然の法則からみえてくるヒント②です。

小括

以上から、
自然は「分布」のもとに成り立っているといえます。
いわゆる「バラつき」があるからこそ「世界」である。と言えます。
生物の「進化論」からもその共通性がみえてきます。

ここで、日本に限らず「社会」を振り返ってみましょう。
社会は「分布」のもとに成り立っているといえるでしょうか?
「分布」を前提としない「制度」や「価値観」が意外にもたくさんあることに気づくかもしれません。

◆国の統治でみると
・民主制、専制・君主制・独裁制
・民主主義、共産主義
・資本主義、社会主義

◆予算の制度でみると
・単年度主義…「予算の会計年度独立の原則」によって、「一会計年度の予算はその年度内に執行し完結することが原則」というものです。
・「繰越制度とは、国の会計制度の中において、歳出予算の効力を翌会計年度にまたがって移動させる特例的な制度」として、「特例的」と表現しています。
・つまり一会計年度内で使い切りましょうというのが「原則」として存在しており、
 「必ず使い切る」
 「ムダでも使い切る」
 「気前よく使い切る」
 ということに陥る特徴をもっています。

◆教育システムでみると
・「第4条 (義務教育) 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。」という選択肢一択
・学習指導要領などに基づく同じ授業という択一
 (※私立など独自性ある生徒の対象特性に応じた教育カリキュラムを開発している法人は除きます)
・「進学」か「就職」か
・「私立」か「公立」か

◆公務員でみると
・日本国憲法第15条「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」
・国家公務員法第96条「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」
・地方公務員法第30条「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」
・「信用失墜行為の禁止」「守秘義務」「職務専念義務」
…などなどにより、
これまで副業が禁止とされてきました。
(少しずつ兼業が解禁されてきています。)

◆他にも、
・戦争、内戦、テロリズム、暴動
・宗教問題、人種問題、…
・差別
・法律
・税制
・国政選挙の制度
・信任、不信任
・与党、野党の攻防でみる「反対意見」の特徴
・人間関係でみる「人間交差点」模様
・価値観、観念
・進路、職業選択
・事業方針
・プロジェクト内容
・プロジェクトの進め方
・事件・事故の検討会や課題解決策の提言

など、本当にたくさんあります。

ですが、本当に「二項対立」で整理・整備していて良いのかがたいへん疑問になることはたくさんありそうです。

逆に、「二項対立」ではない解決策がより解決に近づいていくこともあると考えられます。
(筆者は「二項対立」型ではない「グラデーション」型が望ましい領域が確実に&必ず&至る所に&ある局面からは…などといったように “ある” という見解です。)
それを上記のヒント①ヒント②が示唆してくれていると考えています。
学術的・科学的にみえた「分布」と
社会の課題解決の「分布」に
たいへん普遍的な親和性・共通性があるのではないでしょうか。

結論として、筆者は、

グラデーション型選択肢」(The choices of gradational type)と名付けました。

「右か左か」
「10かゼロか」
「賛成か反対か」
ではない解決策の提示手法のことです。

科学的な分布をベースにした選択肢の開発」が必要にはなりますが、
偏った選択肢ではなく、
視野狭窄な選択肢ではなく、
制度の基本方針を決める際に限られた知見のメンバーで議論された提言等ではなく、
そういった、多様な性質を包摂することでより課題解決に向かうと考えています。

しかしながら、もしこういった根源的性質の分析を「科学的に分析」しようとすると、
生粋の社会科学分野でのこういった類の分析には困難が伴うのかもしれない。
との見方をしています。

筆者が社会科学分野の研究中、
  研究とは「物事を純化すること
と先輩研究者らから教わってきました。
  法則・理論・モデル・真理に向かう、
  メカニズム・事実の解明を行ったり、
  相互関係・因果関係を明らかにする、
といった主旨になります。
その部分はそれ自体でたいへん大切な定義なのだと考えています。
一方で、筆者は、
純化にまい進するあまり
・俯瞰的総合的関連性を見失ってしまう or 気づけないという危険性や、
・純粋性・単純性と混合性/複合性・複雑性が混在している物事になると、現状の科学では解決(解釈)できないのかもしれない
といった危うさをつねに感じながら過ごしています。

実は、自然科学系と社会科学系のミックス(学際的)視点でみたとき、
いよいよ「グラデーション型」ストラクチャー(構造)の解明につながる領域があるとの立場です。
(科学も「グラデーション型」へ!)

おわりに・・・

今回は「グラデーション型選択肢」(The choices of gradational type)をご紹介しました。
筆者によるネーミングにはなりますが、
解決策が「スペクトラム様」「まだら」に存在している現象への対策として、
たいへん有効な視点だと考えています。

もちろん、「右か左」「〇か✕」という課題もたくさんあります。
しかし、「玉虫色」にして重要な課題の解決を先送りすることもあってはなりません。
その意味で、
「グラデーション型選択肢」式か「択一」式かの課題解決手法の見極めはとても大切です。

例えば税制でみても、
所得基準を設けることがありますが、
「年収〇〇〇万円以上~・・・」
という、ゼロベースからある額を境に急に何らかの施策の対象になることがあります。
公平性という視点でみると、たいへん違和感を感じます。
公平性をベースに基準を設けるならば、
階段状(「所得と健康保険納付額」のように)に設けることが望まれます。
もちろん全てではありませんので念のため。
グラデーション型基準というのは、
 ▶公的な納付
 ▶公的給付
などといった分野ではたいへん親和性が高いです。
ITソリューション/デジタル化とともに社会課題へのコミットメントともとても相性が良いでしょう!
実は、
 ▶民間でも親和性は高いです。(多様性、フレキシブル、…)
ぜひ参考にしていただければ幸いです。

行政、企業、団体…といった組織的なくくりのほか、
法律、内規、社則、マニュアル・手順・プロトコル、…といった制度・ルール・仕組に加え、
家族、学校、施設、建設、まちづくり…といった在り方、取り組みの方法、枠組だけでなく、
所得格差、少子化、高齢化、家族制度、婚姻制度、…といった社会課題解決も見据えて、
スポーツ、アミューズメント、遊び、…といったさまざまなジャンルも含んで、
研究開発、技術開発、…といった時代の牽引も基盤にすえて、
政治、経済、外交、軍事、イデオロギー、…といった高度な方向性とともに、
セルフチェック(自己点検)や方向性探求・模索→導出を
グラデーション型選択肢ベースで行ってみることが大切になるでしょう。

また、
過去の外交を考えてみても参考になることはたくさんあります。
相手を尊重するということから生まれる「傾聴」です。
けっして自分の立場、価値観、常識を押し付け過ぎないようにする配慮です。
例え自分(自分側・自分側勢力)の価値観が正しい・正義・望ましい…だったとしても、
相手の価値観に対して必ずと言って良いほどに耳を傾けるという選択肢があるということです。
相手の考えを聞いて、そこから、折衷案を探っていく。解決策を模索していく。

例えば、
1987年12月8日、アメリカのレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長の間で中距離核戦力(INF)全廃条約が締結されました。
この条約締結は一見すると西側諸国の思惑にかなったように見た者たちがいました。
しかし、レーガン大統領は「勝者も敗者もない」と言いました。
敗者も勝者も作ることなく、核兵器全廃でもなく、お互いにとって、ひいては、世界全体にとって望ましい方向に、たいへんナーバスな課題が解決に向けて一歩前進したというグラデーション型選択肢のいち事例になります。(もちろん、全世界が核兵器を全廃することが望まれるのが前提ではありますが、筆者はこの史実にたいへん感銘を覚え、心より敬服しています。)

ちなみに「傾聴」はカウンセリングや医療の場でしばしば使用される技法になります。
さまざまな価値観や考え方がある中で、望ましい方向へとベクトルを変換させるためには、
たいへん有効なコミュニケーション技法と言えます。
とても学ぶところが大きい要素も含んでいます。
その筆者の経験から生まれたのが
 ▶「グラデーション型選択肢」(The choices of gradational type
です。

解決策の導出にとって、
課題が解決されるか、
されずにより深刻複雑化させるかは、
往々にして、ここ(選択肢の形式)に「起源」があるのかもしれません。
知った「今がスタートライン!」です。

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