【第69回】 大戦の口火①:中台戦争を回避せよ!

安全保障
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今回は「大戦の口火」ということで「台湾有事」です。

地域紛争ということで、あえて「中台戦争」を用いて表記することにしました。

計9回にわたりシリーズ化してお伝えします。

本シリーズでお伝えする内容は、戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した
The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan
(次の大戦の口火:中国による台湾進攻の図上戦争から)
(発表:2023年1月9日)を参照しています。

タイトル:次の大戦の口火

副題:中国による台湾進攻の図上戦争シミュレーションから

目次

要旨            1
 課題           1
 結果           2
 成功の条件        3
 割に合わない勝利の回避  3

第1章 なぜこのシミュレーションをしたのか?台湾有事の透明性ある分析の必要性  6
 中国の経済的・軍事的台頭          6
 台湾は最も危険な米中間の火種である     9
 中国による攻撃への懸念の高まり       12
 ウクライナ戦争との類似点・相違点      15
 現在利用可能なモデル、評価、図上戦争の限界 16

第2章 方法としての図上戦争    23
 定量的モデル vs. 定性的判断  23
 目的別図上戦争の違い     26
 分析的図上戦争の原則     28

第3章 台湾を舞台にした オペレーション・ウォーゲーム  40
 機密データの問題                  41
 ベースモデルの考え方                43
 台湾作戦の図上戦争                 44
 感度解析                      51

第4章 前提条件-基本例と逸脱例         52
 大きな戦略の前提:政治的背景と意思決定    54
 戦略的な前提:戦闘命令、動員、および交戦規則 64
 作戦・戦術の前提:能力、武器、インフラ    73

第5章:成果                   83
 主な成果:台湾の自治             84
 基本シナリオ                 85
 悲観的シナリオ                89
 楽観的なシナリオ               93
 台湾の孤立                  96
 終末の戦い                  98
 まとめ                    101
 なぜDODの機密扱いのゲームと結果が違うのか? 102

第6章 戦争はどのように展開するのか?  106
 台湾情勢               106
 血みどろの空中戦と海上戦       111

第7章 提言        116
 政治と戦略       116
 ドクトリンと心構え   125
 兵器と基盤       132

第8章 結論-勝利がすべてではない   142

付録A: シナリオ        146
付録B:図上戦争用語集     151
付録C:略語と頭字語      153
著者について          157

要旨

総論

もし中国が台湾への水陸両用侵攻を試みたらどうなるのか?
CSISは、中国による台湾への水陸両用侵攻を想定したウォーゲームを開発し、24回実行した。
ほとんどのシナリオで、米国・台湾・日本は中国による通常の水陸両用侵攻を撃退し、台湾の自治を維持することができた。
しかし、この防衛には高いコストがかかっていた。
米国とその同盟国は、数十隻の艦船、数百機の航空機、数万人の軍人を失った。
台湾は経済的な打撃を受けた。
さらに、この大きな損失は、長期間、米国の世界的な地位にダメージを与えた。
中国も大きな損失を被り、台湾の占領に失敗すれば、中国共産党の支配が不安定になる可能性がある。
したがって、勝利だけでは十分ではない。米国は直ちに抑止力を強化する必要がある。

課題

中国の指導者は、台湾を中華人民共和国に統合することをますます強く主張するようになった。
米国の高官や民間の専門家は、中国の意図と紛争の可能性について懸念を表明している。
中国の計画は不明だが、軍事侵攻はあり得ない話ではなく、
軍事侵攻は、中国にとって「台湾問題」に対する最も危険な解決策となるだろう。
そのため、米国の安全保障論議の焦点となっている。

米軍にとって「台湾有事はペースの速いシナリオ」であるため、そのような侵攻の作戦力学を共有し、厳密かつ透明性のある理解を得ることが重要である。

ちょうど 冷戦時代のフルダ・ギャップ(Fulda Gap)でこのような理解が深まったように、アナリストも台湾侵攻シナリオを検討する必要がある。
冷戦時代のフルダ・ギャップ(Fulda Gap)でこのような理解が進んだように、アナリストは台湾侵攻シナリオを考慮しなければならない。

このような理解は重要である。
防衛が絶望的な場合と防衛が可能な場合とでは、米国の政策は根本的に異なるからである。

もし台湾が米国の支援なしに中国から自らを守ることができるのであれば、米国の戦略をそのような事態を想定して米国の戦略を調整する理由はない。。

もう一方の極端な例として、米国がいくら援助しても台湾を中国の侵略から救えないのであれば、米国はそのような事態を想定した戦略をとる必要はない。

極端な話、いくら米国が支援しても中国の侵略から台湾を救えないのであれば、米国は台湾を守るために奇想天外な努力をするべきではない。

しかし、もし米国の介入が一定の条件下で、一定の能力に依存して、米国の介入が侵略を阻止できるのであれば、米国の政策はそれに応じて形成されるべきであろう。

このようにすれば、そもそも中国が侵略を思いとどまる可能性も高くなる。

しかし、このような米国の戦略形成には、政策立案者が問題意識を共有することが必要である。

しかし、侵攻の作戦力学とその結果については、その重要性にもかかわらず、厳密で公開情報源での分析が行われていない。

これまでの非機密扱いの分析は、侵攻の一面に焦点を当てているか、厳密な構造になっていないか、軍事作戦に焦点を当てていないかのいずれかである。

機密扱いの図上戦争は、一般市民にとって透明性がない。

適切な分析がなければ、公開討論はまとまらない。

そこで、このCSISプロジェクトでは、歴史データとオペレーションズ・リサーチを用いて、2026年の中国による台湾への水陸両用侵攻をモデル化したウォーゲームを設計した。
2026年の中国による台湾への水陸両用侵攻を想定したウォーゲームを設計した。

ルールの一部は、過去の軍事作戦との類似性を利用して設計された。例えば、中国軍の水陸両用リフトは、ノルマンディー、沖縄、フォークランドを分析したものである。沖縄、フォークランドを分析したものである。

また、次のような理論的な兵器性能データに基づいて作られたルールもある。例えば、ある空港をカバーするために必要な弾道ミサイルの数を決定するなどである。

ほとんどのルールは、この2つの方法を組み合わせたものである。

このように、図上戦争の戦闘結果は、個人の判断ではなく、分析的なルールで決定される。

同じルールが適用され、一貫性が保たれる。

インタビューと文献調査をもとに プロジェクトでは、主要な前提条件について最も可能性の高い値を組み込んだ「基本シナリオ」を想定しました。

プロジェクトチームは、この基本シナリオを3回実行しました。
その後、さまざまなエクスカージョンケースで、さまざまな前提条件の影響を調査しました。

これらの仮定が結果に与える影響は、「台湾侵攻スコアカード」に示されている(図8参照)。

全部で24回の繰り返しにより、紛争の輪郭が描かれ、米国が直面する大きな脅威について首尾一貫した厳密な図式が作り出された。

結果

侵略はいつも同じように始まる。
開戦時の砲撃で、台湾の海軍と空軍のほとんどが破壊される。
中国海軍は強力なロケット部隊で増強し、台湾を包囲する。
台湾を包囲し、包囲された島への船や航空機の輸送を妨害する。
数万人の中国兵が軍の水陸両用船と民間のローロー船で海峡を渡り、空襲と空挺部隊が海岸堡の背後から上陸する。

しかし、最も可能性の高い「ベースシナリオ」では、中国の侵攻はすぐに見破られてしまう。

中国の大規模な砲撃にもかかわらず、台湾の地上軍は海岸線に流れ込み、侵略者は物資の補給と内陸部への移動に苦心する。

一方、米軍の潜水艦、爆撃機、戦闘機、攻撃機は、しばしば日本の自衛隊によって増援され、中国の水陸両用艦隊を急速に機能不全に陥れる。

中国が日本の基地や米軍の水上艦船を攻撃しても、この結果を変えることはできない。
台湾は自治権を維持する。

ここには一つの大きな前提がある。
台湾は抵抗し、降伏してはならない。
もし台湾が米軍を投入する前に降伏すれば、あとは何もできなくなる。

この防衛には高いコストがかかる。

日米両国は、何十隻もの艦船、何百機もの航空機、そして何千人もの軍人を失う。

このような損失は、何年にもわたって米国の世界的地位を損ねることになる。

台湾の軍隊は壊滅状態ではないが、 電気も基本的なサービスもない島で、損なわれた経済を守るために、台湾の軍隊はひどく劣化する。

中国もまた大きなダメージを受ける。
海軍は壊滅状態、水陸両用部隊の中核は崩壊し、数万人の兵士が捕虜となる。

成功の条件

24回のゲームの繰り返しを分析した結果、中国の侵略に打ち勝つための必要条件が4つあることがわかった。

  1. 台湾軍が戦線を維持すること。
  2. 台湾に「ウクライナモデル」は存在しない。
  3. 米国は、日本国内の基地を戦闘行為に使用できるようにしなければならない。
  1. 米国は、中国の防御圏外から中国艦隊を迅速かつ大量に攻撃できること。

割に合わない勝利の回避

勝利がすべてではない。

米国はピュロスのような勝利を収め、長い目で見れば「敗者」である中国よりも苦しみを味わうことになるかもしれない。さらに、コストが高いという認識は、抑止力を弱めるかもしれない。

もし中国が、米国は台湾防衛のための高いコストを負担したくないと考えるなら、中国は侵略の危険を冒すかもしれない。したがって、米国は、紛争が発生した場合に勝利するためのコストをより低く抑えるための政策やプログラムを策定すべきである。

そのような方策には以下が含まれる。

政治と戦略
▶ 戦争計画の前提を明確にする。
▶ 本土攻撃は計画してはならない。
▶ 死傷者が多くても作戦を継続する必要性を認識せよ。
▶ 台湾の空軍と海軍の戦力を非対称化する。

理念と態度
▶ 日本とグアムの航空基地を強化・拡大する。
▶ 地上での航空機の生存性を高めるための空軍の教義の改訂と調達を再構築する。
▶ 中国本土の上空を飛行する計画はとらない。
▶ 海兵隊沿岸連隊と陸軍マルチドメイン・タスクフォースの限界を認識し、その数に上限を設ける。
▶ 脆弱性を生むような危機的な展開は避ける。

兵器と基盤
▶ より小型で生存性の高い艦船にシフトし、不具合のある艦船や複数の沈没に対処するための救助メカニズムを開発する。
▶ 潜水艦やその他の海底プラットフォームを優先的に使用する。
▶ 極超音速兵器の開発と配備を継続するが、ニッチな兵器であることを認識する。
▶ 戦闘機よりも爆撃機部隊の維持を優先する。
▶ より安価な戦闘機を生産し、ステルス機の取得と非ステルス機の生産のバランスをとる。

おわりに・・・

今回から「大戦の口火」シリーズ「中台戦争を回避せよ!」をご紹介しています。

①回目は、「The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan」の要旨をお届けしました。

国家が戦争や特別な軍事作戦を開始しようとする場合に、
諸外国はその意思を直接的に知る方法は基本的にありません。
第64回】でも触れましたが、
「国家防衛戦略」(2022年12月閣議決定)にも書かれているように、
Ⅱ章3節「意思を外部から正確に把握することには困難が伴う」と明確に書かれていました。
そのような中、筆者は「山本五十六」連合艦隊司令長官を例にして、
その「意志を外部から正確に把握することは可能」とコメントさせていただきました。
たいへんな努力と資源を投入する必要がありますが、
その立場に現在もなお変わりはありません。

核兵器、経済大国、軍事大国、先進技術国、多人口国家・・・
というように、ひとたび口火が切られれば、その破壊力は想像を絶するでしょう。

そのような中、
抑止という考え方はたいへん重要です。
さまざまな方法、フェーズ、チャンネル、関係、要素・・・があります。

特に、軍事領域や外交・安全保障領域において抑止力の方法には、
 ▶①拒否的抑止防衛力を高めて攻撃を思いとどまらせる抑止
 ▶②懲罰的抑止報復力を高めて攻撃を思いとどまらせる抑止
の2つがあります。

抑止力の手段には、
 ▶①核抑止:核兵器による抑止
 ▶②通常抑止:通常兵器による抑止
の2つが一般的です。

筆者は、
 ▶③究極的抑止:絶対的防衛手段を獲得して攻撃を思いとどまらせる抑止
を抑止力の手段の一つに考えています。
この詳細については、本シリーズ「大戦の口火」の紙面の制約から、
言及を別の機会に譲りたいと思います。

今回は「要約」の記事をご紹介しました。
安全保障の体制整備を国が進めているところですが、
その背景やシナリオ(考えられる想定)をさまざまな角度から正しく知って、
ぜひ、自分たちの安全安心な平和な日々が続くよういち国民として支援していきましょう。
知った「今がスタートライン!」です。

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