【第74回】 大戦の口火⑥:中台戦争を回避せよ!

安全保障
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今回は「大戦の口火⑥」ということで「台湾有事」の6回目です。

計9回にわたりシリーズ化してお伝えしています。

本シリーズでお伝えする内容は、戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した
The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan
(次の大戦の口火:中国による台湾進攻の図上戦争から)
(発表:2023年1月9日)を参照しています。

第5章成果

総論

この章では、繰り返しの結果について説明する。これらは、5つのシナリオのカテゴリーに分類されている。
この章では、シナリオを「基本」「悲観」「楽観」「台湾独立」「ラグナロク(極めて悲観的)」の5つに分類している。
全体として、4つの条件が揃えば、2026年に中国が台湾侵攻を成功させる可能性は低いということが分かった。条件である。

  1. 台湾は精力的に抵抗しなければならない。そうでなければ、無意味になる。
  2. 米国は、数日以内に、その能力をフルに発揮して敵対行為に参加しなければならない。
    遅延や中途半端な措置は、防衛を困難にし、米国の死傷者を増やし、中国が取り返しのつかない事態を引き起こす危険性を高める。
    中国が台湾に不可逆的な軍事拠点を作る危険性を高める。
  3. 米国は日本国内の基地を使用する必要がある。基地がなければ、米国は 多数の戦闘機・攻撃機を使用することができない。
  4. 最後に、十分な空中発射の長距離 ASCM を保有する必要がある。

しかし、台湾防衛を成功させるにも、大きなコストがかかる。

米国とその同盟国は 数十隻の艦船、数百機の航空機、数千人の要員を失う。

この大きな損失は 米国の世界的な地位は何年にもわたって損なわせしめる。

台湾の軍隊は崩壊していないものの、著しく弱体化する。

電気も基本的なサービスもない島で、ひどく破壊された経済を守るために残存するだけである。

中国の海軍はボロボロになる。水陸両用部隊の中枢は壊滅し、何千人もの兵士が捕虜となる。

主な成果:台湾の自治

結果、台湾の政治的自立の継続が判断の重要な条件となった。この条件では、台湾経済へのダメージや米国の損失の程度は考慮されない。しかし、本報告書の結論の章では軍事的成果の文脈でそれらを考察している。米国と台湾の政策目標は台湾の自治であり、コストについての議論はない。

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1.中国の勝利:中国地上軍が島内の台湾軍を上回る。これが実現すれば、中国軍は空港や港を十分に支配し、地上部隊の大部分を台湾に送り込むことができる。しかし、台湾のような大きさの島を完全に征服するには、台湾が降伏しない限り、何ヶ月もかかるだろう。・・・

2.膠着状態:中国軍が陸上で重要な位置を占め、両者とも急速な前進ができない=膠着状態。中国軍は少数の港と空港を占領している。米国はこれらの施設を完全に使用不能にするために攻撃する。中国はそれらを修理して完全に機能させようと試みる。中国が島の南部とその施設を確保することができたときに、このような結果が生じる。

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3.中国の敗戦:中国水陸両用艦隊はほとんど破壊され、中国軍は主要な上陸作戦を継続できるような 十分な港や空港を占領していない。相対的に劣勢となった中国軍は、狭い上陸地点に閉じ込められ、空輸や小規模な物資の供給を受けることしかできない。このままでは、台湾軍が中国軍の生存者を掃討するのは時間の問題となる。米国にとって最大の課題は、残存する侵略者を排除することではなく、交戦のための受け入れ可能な道筋を見つけることであろう。

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基本シナリオ

運用の成果:
3回のウォーゲームうち2回ではすぐに決着がつき、上陸した中国軍は主要都市を攻略することができず、10日以内に物資が枯渇した。
そのうちの1回では、PLA 南部に上陸し、台南港を占領した。
しかし、米軍の空爆により使用できなくなった。
作戦から21日の時点で中国側の陣地は手に負えなくなった。
これは基本シナリオの唯一の反復シミュレーションである。
これは基本シナリオで唯一、中国の決定的な敗北と判定されず、”中国に不利な傾向 “と判定された。
すべてのケースで、中国の水陸両用艦隊の少なくとも90%が破壊され、陸上部隊は空からの投下と空輸による補給のみで支えられることになる。

fig1.日米中の航空・海軍の損失(基本シナリオ)(出所:CSIS資料)

基本シナリオのすべての反復シミュレーションにおいて、米海軍の損失は、空母2隻をはじめ、7隻から20隻の主要な水上戦艦(駆逐艦や巡洋艦など)を失った。

悲観的シナリオ

中国に有利なケースを組み込んだ悲観シナリオを19回実行した。
極端な「台湾独立派」「ラグナロク(超悲観)」シナリオについては、別途検討した。
悲観シナリオを多く設定したのは、基本シナリオの運用結果と、仮定が変更された場合に基本シナリオの結果がどの程度強固になるかを検証するためである。

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運用の成果:
悲観シナリオの結果は、基本シナリオに比べ、中国にとって著しく良い結果となった。
しかし、どのシナリオも中国側の明確な成功には至らなかった(例:中国は台北や台湾の4分の1以上を占領することはできなかった。)
18回のうち3回は中国軍の敗北、残りは作戦開始から14~35日後のシミュレーション終了時点でも決定的な結果は得られていない。
そのうち13回は膠着状態であった。
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fig2.日米中の航空・海軍の損失(悲観シナリオ)(出所:CSIS資料)

楽観シナリオ

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作戦の成果:
どちらの楽観的な考え方も、中国の決定的な敗北をもたらした(または、米国、台湾、日本の勝利)。
中国艦隊は、最初の3日間、3個水陸両用旅団以上の上陸ができず、
1~2個旅団の空挺部隊と航空攻撃部隊で補完した。
後続の波は個々の大隊で構成された。

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fig3.日米中の航空・海軍の損失(楽観シナリオ)(出所:CSIS資料)

台湾の独立

シナリオの設計:
「台湾独立」シナリオは、米国からの直接的な物質的支援がない場合に、台湾がどのような状況になるかを検証するために設計された。
このシナリオは、台湾防衛に対する米国のパートナー貢献度を測るためのベースラインとなる。
プロジェクトチーム は、このシナリオを 1 回繰り返し実施した。
米国が傍観者であったため、他国が介入してこないという想定である。
その結果、どの国も介入しないことがわかった。
他のシナリオで実行された逸脱事態は、このシナリオには組み込まれていない。
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ラグナロク(極めて悲観的)

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作戦の成果:
予想通り、中国軍の勝利に終わった。
在日米軍の影響を受けることなく、中国軍は陸上攻撃ミサイルをグアムに集中させ、基地と してのグアムを無力化することができた。
米軍の爆撃機がないにもかかわらず、台湾の ASCM や海峡に侵入した米軍の SSN から、中国水陸両用艦隊は多くの犠牲を出した。
この攻撃により、水陸両用艦隊は当初の3分の1にまで減少した。
しかし、米軍の戦闘機・攻撃機がないため、中国軍は航空機を地上侵攻の支援に集中させることができた。
これにより、中国軍は陸上で着実に前進することができた。
破壊された水陸両用艦船を港湾と空港の奪取で補うことができた。

・・・

侵攻に対する最後の重大な挑戦は、米軍の大艦隊の不成功であった。
3週間の戦闘の後、29隻の巡洋艦と駆逐艦、2隻の空母、10隻のSSNからなるアメリカ艦隊が台湾に接近した。
中国軍の潜水艦、空挺ASCM、水上艦の猛攻撃を受け、台湾を救援することなくアメリカ艦隊はほぼ壊滅状態に陥った。この時点で戦闘は終了した。

要約

基本シナリオでは、中国の敗北が比較的早く、明確になった。
中国の陸上部隊が港湾や空港を占領して海峡を渡る戦力の流れを拡大する前に、米国と台湾、日本の対艦ミサイルが中国の水陸両用艦隊を破壊することができたことが、その主な理由である。

楽観的シナリオ (楽観的シナリオ(米国とそのパートナーに有利)では、同じ結果が得られたが、より早く、より少ない死傷者で済んだ。

悲観シナリオ(中国有利)では、戦闘はより長期化し、作戦結果も決戦的なものに至るまで幅広い範囲に及んだ。
中国側の決定的な敗北から、中国が港や空港を管理下に置く膠着状態に至るまで、作戦結果は多岐にわたった。

「台湾独立」シナリオでは、中国が容赦なく進攻してきた。
その結果、中国が台湾全島を占領することになり、明らかに中国軍の勝利となった。

・・・

なぜ、米国防総省の機密扱いのウォーゲームと結果が違うのか?

おわりに・・・

今回は「大戦の口火⑥」ということで「台湾有事」の6回目でした。

5分類されたシナリオに基づき、机上戦争によって結果を検証するものでした。

いずれのシナリオにおいても、
これまで説明してきた前提や条件をもとに、ウォーゲームが展開されました。

具体的な損耗状況もたいへんリアル性のある数字なのではないでしょうか。

すでにお気づきの方も多いのかもしれません。
本当に起こるとするならばという「シナリオ」に、
実のところ定まったものはありません。
当然、予知・予想ではないため、その点は当然のことと理解できます。

ここで重要なことは、
どういった政治的、戦略的、戦術的、経済的、社会的な条件が、
様々な結果にどのような影響を与える可能性がある。
ということを「知る、気づく、考慮する…」ことだと筆者は受け止めています。

アメリカにとっては、一国では当然対処できない問題ですから、
パートナー国と言われる国・地域への働きかけを含めた、
たいへん重要なメッセージとしても受け取ることができるのではないでしょうか。

歴史的に戦争を経験したことがない国にとっては、
戦争を運営していくことそのものに大きなリスクと未知性を伴っています。
戦争はけっして行ってはならないのは間違いなく当然なのですが、
然は然り乍ら、戦争を一切無視する平素の体制構築もまたあってはならないことだと筆者は考えています。

山本五十六の言葉に
百年兵を養うは一日これを用いんがためなり
とあります。(諸説ありますが、本記事ではこれを使用しています。)
軍隊を保有し、その能力を養成しておくことの本質は、
1日たりとも使うことがないことを目指すものであり、
これが究極の平和志向の思考になるのではないでしょうか。
筆者はこの言葉に賛同をしています。

あらゆる視点から検討をし、
もちろん、政治、戦略・戦術的、な研究もですが、
情報収集と分析への不断の努力もたいへん極めてものすごく重要です。
ぜひ当局に置かれては引き続きご尽力に期待しています。
知った「今がスタートライン!」です。

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