【第77回】 大戦の口火⑨:中台戦争を回避せよ!

安全保障
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今回は「大戦の口火」ということで「台湾有事」の9回目です。

計9回にわたりシリーズ化してお伝えしています。

本シリーズでお伝えする内容は、戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した
The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan
(次の大戦の口火:中国による台湾進攻の図上戦争から)
(発表:2023年1月9日)を参照しています。

第8章結論-勝利がすべてではない

総論

ゲームの結果、米国と台湾は、比較的悲観的な想定でも島の防衛に成功することがわかった。これは、多くのオブザーバーが抱いていた印象とは異なり、重要な知見である。また、中国の水陸両用の艦船に対する先制攻撃や核兵器の早期使用など、リスクの高い戦略を米国が検討する必要はないことも示している。

中国がこのような作戦を行うには、多大なリスクを負うことになる。第 5 章では、侵攻に成功した場合でも、中国空軍と海軍に大きな損失が発生することを説明し ている。この損失を補うには、何年もかかるだろう。台湾に対する侵攻作戦では、何度も繰り返されたように、中国軍が海上で大きな損失を受け、その戦力を維持できな かった場合、部隊が壊滅する危険性がある。この場合、何万人もの捕虜が発生し、それは非常に分かりやすく、感情的な敗戦の象徴となる。このプロジェクトでは、これらの損失が中国の政治体制にどのような影響を及ぼすかについては検討しなかったが、中国共産党は政権を維持するリスクを冒すことになる。

しかし、米国や台湾が悲観的になる必要はない。第一に、中国が選択しうるのは、台湾の沖合にある島々の奪取、侵攻を伴わない砲撃、封鎖など、他の強圧的な道を選ぶ可能性がある。また、台湾の沖合にある島々の奪取、侵攻を伴わない砲撃、封鎖など、他の強圧的な手段を取ることも可能である。こうした事態も考慮に入れておく必要がある。第二に、台湾の軍部と指導部は、中国軍の攻撃に対抗するために、多大な損失を覚悟の上で、士気を高める必要がある。抵抗する意志がなければ、あとはどうしようもない。

最後に、人的、経済的、軍事的、政治的コストは、防衛が成功した場合でさえも高くつくことになる。これらは、莫大なものになるだろう。以下に、そのいくつかを紹介する。

・台湾の経済が衰弱:中国軍は、たとえ敗北したとしても、台湾のインフラに甚大な損害を与え、台湾経済を何年にもわたって麻痺させる。

・情報通信のダメージ:このシミュレーションでは、作戦レベルでのサイバー攻撃は含まれていたが、経済的・社会的な影響については検討されていない。台湾と米国はともに、民間および経済インフラに損害を受ける可能性がある。

・失われる軍事力:米国はその軍事力に甚大な損害を被ることになる。これらの能力を再建するには何年もかかり、中国の軍事的近代化の急速なペースを考えると、中国の再建よりも(米国の軍事力に関わる再建は)遅いものとなる。現在、大型艦船を建造している米国の造船所は2つしかなく、海軍の建造計画をこのまま継続したのでは、失われた数十隻の艦船を代替するまでに数十年かかるだろう。現在の造船所の能力は、現在の空母部隊を維持する上では十分なだけであって、失われた空母の代替は不可能である。その意味では、航空機であれば、もう少し簡単に置き換えることができるだろう。例えば、米国が失った航空機は、シナリオの平均で 200から500機であった。現在の航空機調達率を年間約120機とすると、これ以上航空機が減らないと仮定した場合、これらの航空機の代替には2〜4年かかる。戦争が想定期間の 3、4 週間を超えた場合、または南シナ海での交戦による損失が含まれる場合、艦船と航空機の調達・換装にはさらに時間がかかる。

・世界における地位の喪失:米中衝突の最中もその後も、世界は静止しているわけではない。他の国、例えば、ロシア、北朝鮮、イランなど、他の国々は米国の注意をそらすことを利用して、自分たちの目的を追求する可能性がある。戦後、弱体化した米軍は欧州や中東での勢力均衡を維持できなくなるかもしれない。

・エスカレーションのリスク:このプロジェクトは通常型紛争に焦点を当てたが、多くの このプロジェクトは通常型紛争に焦点を当てたが、侵攻に関する多くの分析では、核兵器が登場する。最近の小説「2034」は核攻撃で締めくくられている。CNASのウォーゲーム「危険な海峡」も同様に、核兵器の使用で終わっている。このようなエスカレーションの力学がどうなるかは誰にもわからない。核保有国間の通常戦争という前例のない出来事と、中国共産党の不透明な意思決定プロセスに左右される。

・長引く紛争または繰り返される紛争:最終的に、戦争はこの最初の段階を経た後も終結せず、数ヶ月あるいは数年単位で長引く可能性がある。紛争は定期的な停戦を伴う偶発的なものになるかもしれない。

米国が戦争を成功裏に終わらせたとしても、失望のシナリオが生まれるかもしれない。

このプロジェクトは、米国が台湾を防衛すべきかどうかについて、立場を表明するものではありません。そのためには、政治的、外交的にメリット、コスト、価値を評価することが必要であり、今回の取り組みの範囲を超えている。このプロジェクトは、様々なシナリオで台湾を防衛した場合の結果と、条件と能力に関する異なる仮定がそれらの結果にどのような影響を及ぼすかを厳密に記録している。この分析は、米国が今後どのように行動すべきかについて、国民と政策の議論に役立てることを意図している。

抑止するためには、中国が武力で勝てるかどう疑ってかかる必要がある。そのためには、米国の軍事力がその任務に対して明らかに十分な能力を保有しているものでなければならない。

この分析から得られる結論は、防衛の成功は可能であり、抑止は達成可能であるということ。しかし、それには計画、資源、政治的意志が必要である。

おわりに・・・

今回は「大戦の口火」ということで「台湾有事」の9回目でした。

ある程度悲観したシナリオをもってしても、米台側が勝利するというものでした。
一方で、その勝利はけっして手放しで喜べるものではないという見通しも示しました。
台湾本島は、ひどく戦闘による被害を受けるとともに、
米国は、世界的地位を喪失するだけでなく、
米国の防衛、経済にとってもたいへん大きなダメージを受けることを示唆しました。
さらには、非当事国における国家・指導者等による思惑の実現に向けた、
いわゆる、米国の注意や影響力が薄れるタイミング(虚)に乗じて、
それぞれが行動を起こすリスクにも言及されていました。

軍事情勢や外交はたいへん先読みすることに専門的知識と先見の明が必要ですが、
中台戦争がいよいよはじまってしまったならば、
その見通しを立てて、望ましい方向へと対処していくことが極めて困難になってしまう、
そういった可能性を突き付けたように考えています。

アメリカ CIAのバーンズ長官は2023年2月2日、ワシントンにある大学において講演しました。
この中でバーンズ長官は、
「諜報活動などで得られたインテリジェンスの情報としたうえで、中国の習近平国家主席が『2027年までに台湾侵攻を成功させるための準備を行うよう軍に指示していることを把握している』と述べました。」
「そのうえで、『これは習主席が2027年や、ほかの年に台湾を侵攻すると決断したということではない。ただ、習主席の関心や野心が、いかに真剣かを示すものだ。彼の野心をみくびるべきではない』と強調しました。」
「アメリカのインド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)も、2021年、台湾侵攻について、この年(2027年)までに『脅威が顕在化する』と発言しています。」

(出所:NHK NEWS WEB,CIA長官 “2027年までに台湾侵攻の準備を 中国 習主席が指示”,2023年2月3日17時35分
と述べています。

けっして、2027年に中台戦争を始めようとしているわけではありません。
読む際には、注意が必要です。
しかし、相応の指示をしたという情報に関しては、アメリカのインテリジェンスとして得ている。ということのようです。
この情報が果たして真実であるかどうかについては、直接入手することができないにしても、詳細な分析・評価が必要になることは間違いないようです。

第64回】【第65回】【第69回】でもふれたように、
情報は取り方と分析次第」です。
バーンズCIA長官の発言意図を含めて、
習近平国家主席の政治意図や思惑など、
かなりの精度をもって把握することが可能になるのではないでしょうか。

十分に情報分析を行って、必要な体制・態勢の整備や、
望ましい方向へと進む対応につながっていってもらえればと心から期待しています。
知った「今がスタートライン!」です。

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