【第78回】 要人警護①:安倍元総理の襲撃事件からみえるもの

事件
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今回は「要人警護①」「安倍元総理の襲撃事件に係る報告書」をご紹介します。

正式な報告書の標題は、
令和4年7月8日に奈良市内において実施された安倍晋三元内閣総理大臣に係る警護についての検証及び警護の見直しに関する報告書」(2022(令和4)年8月、警察庁)
です。

※報告書より多くを引用しています。

本報告書について

発生した事案

「令和4年7月8日午前11時31分頃、奈良市西大寺東町二丁目1番63号先東側路上において、警察庁長官が警護対象者として指定し、奈良県警察がその警護を実施していた安倍晋三元内閣総理大臣が街頭演説中、背後から徒歩で接近してきた男による銃撃を受け、殺害されるという重大事案が発生した。」

検証までの経緯

「警察庁においては、警察が組織として実施していた同警護において、最も重要な警護対象者の生命を守ることができなかったことを極めて重く受け止め、奈良県警察による被疑者に対する刑事事件の捜査とは別に、同警護について徹底した調査を行う必要があると判断し、直ちに、奈良県警察本部の職員からの聞き取りを開始した。同12日には、国家公安委員会から指示を受け、警察庁次長を長として、同警護の問題点を明らかにするとともに、今後講じるべき具体的な対策を検討することを目的とする「検証・見直しチーム」を立ち上げた。」

検証方法

「検証においては、奈良県警察から提出を受けた関係資料の確認・精査を行うとともに、同警護の責任者であった同警察本部長をはじめ、現場において同警護に従事していた警護員等からの聞き取り、現場の状況の確認等を行い、同警護の準備から警護計画の作成(起案・決裁)を経て、その実施に至るまでの事実関係を明らかにした。次に、その事実関係に基づき、同警護の問題点、すなわち、同警護がその目的を果たすことができなかった要因を中心に分析・評価を行った。加えて、今後の警護の見直しの課題となるべき事項についても洗い出しを行った。」

警護等の見直し方法

「見直しにおいては、検証の結果を踏まえて、警護における警察庁の関与の強化をはじめとする新たに警護要則に盛り込むべき事項のほか、警護を担う組織・態勢の強化等、警護において同様の事態を二度と生じさせないようにするための具体的な対策について検討・整理を行った。
 警察庁は、これらの検証・見直しを行うに当たっては、その過程で11回(臨時会5回を含む。)にわたって、国家公安委員会に経過を報告し、同委員会における議論を踏まえつつ、作業を進めた。」

「本報告書は、この検証・見直しの結果を取りまとめたものである。」

令和4年8月25日
警察庁

第1 検証で確認された事実

1 検証の方法等

・警察庁が検証に当たった。
・奈良県警察は関係資料を提出した。
・警察庁は、資料の内容を確認・精査した。
・警察庁は、現地に職員を派遣し、奈良県警察本部長(以下「警察本部長」という。)、警備部長、奈良西警察署長その他の幹部職員、発生現場付近で警護に従事していた警察官をはじめとする関係者から聞き取りを実施した。
・現地においても、関係資料の閲覧・分析を行った。
・発生現場付近で警護に従事していた警察官による現場状況の再現等を実施した。
・令和4年7月8日の大和西大寺駅北口における安倍晋三元内閣総理大臣(以下「安
倍元総理」という。)の街頭演説に係る警護(以下「本件警護」という。)に先立ち、
6月25日、同一場所において、茂木敏充自由民主党幹事長(以下「6月25日警護対
象者」という。)による街頭演説に係る警護(以下「6月25日警護」という。)が実
施され、
・本件警護の10日前の6月28日には、同駅南口において安倍元総理の街頭演説に係る警護(以下「6月28日警護」という。)が実施されていることから、6月25日警護及び6月28日警護についても、事実関係の確認を行った。

2 警護の概要

・内閣総理大臣、国賓その他その身辺に危害が及ぶことが国の公安に係ることとなるおそれがある者については、警護要則(平成6年国家公安委員会規則第18号)第2条の規定に基づき、警護対象者として指定され、また、警護は、警護要則第3条第1項の規定により、警護対象者の身辺の安全を確保することがその本旨とされている。

・警護対象者が選挙運動のための街頭演説を予定する場合、・・(中略)・、当該都道府県警察は、関係者と連絡調整を行い、警護要則第6条第1項の規定に基づき、警護の基本方針、警護体制、警護措置、警護員(警護に従事する警察官をいう。以下同じ。)の任務及び配置等を内容とする警護計画を作成することとなる。

・奈良県警察においては、街頭演説に係る警護の実施に先立ち、奈良県警察本部警備部警備課(以下「本部警備課」という。)から当該街頭演説場所を管轄する警察署(以下「管轄警察署」という。)に対して、・・・中略・・・、「警護警備実施計画書」の作成を求めている。

・管轄警察署は、警察署長による決裁を受けた上で、本部警備課に対して同計画書を送付し、・・・中略・・・、奈良県内の警護日程・警護体制の全容等を盛り込んだ「警護警備計画書」を作成し、警察本部長の決裁を受けることとなる。

・警護の実施に当たって、警察本部長が作成する計画は、警護要則に規定する「警護計画」であるが、・・・・・、実務上、警護のみを実施する場合においても、「警護警備計画書」と題する書面が作成されている。

・奈良県警察においては、通常、・・・、本部警備課に「警護連絡室」を、管轄警察署に「警察署警護警備連絡室」を設置している。

・また、奈良県警察は、通常、街頭演説に係る警護の現場において、
 身辺警護員のほか、
 配置場所を固定されて街頭演説場所周辺の聴衆の動向を警戒することを任務とする警護員、
 警護の現場一帯を広く巡回して不審者の発見等に従事する警護員等
を配置した上で、現場において
 最上位の階級にある者を現場指揮官として位置付け、同現場の総括指揮に当たらせている。

・警護対象者には、原則として、警視庁警護員が専属配置されており、

・6月25日警護対象者及び安倍元総理は、・・・、それぞれが都外で選挙運動のために街頭演説をする場合には、警視庁警護員が随伴し、奈良県警察をはじめ、当該街頭演説場所を管轄する道府県警察の警護員と連携して警護に当たっていた。

3 6月25日警護

(1) 自由民主党奈良県支部連合会の関係者との間の事務連絡等の状況

・6月25日警護対象者は、7月8日に安倍元総理が銃撃されることとなった奈良県道104号線谷田奈良線(以下「県道」という。)の導流帯(以下「ゼブラゾーン」という。)上のガードレールで囲まれた区画(以下「本件遊説場所」という。)で街頭演説を行うこととなった。

・警護対象者の街頭演説が本件遊説場所で行われることとなったのは、この時が初めてであった。

・本件遊説場所で街頭演説をすることに伴って警護上想定される危険については、聴衆の飛び出し、街頭演説終了後に車両まで徒歩で移動する6月25日警護対象者に対する違法行為等が念頭に置かれるにとどまり、本件遊説場所の南方向への警戒の必要性について具体的に考慮されることはなかった。また、街頭演説場所の変更を提案することについて検討されることはなかった。

(2) 警護計画の作成(起案・決裁)

・本部警備課の担当者(身辺警護員A)との打合せを踏まえ、6月23日、奈良西警察署は、6月25日警護に関して、・・・「警護警備実施計画書」の案を作成した。

・6月23日、奈良西警察署警備課長、副署長及び警察署長は、同計画書を決裁

・同警察署長は、同日、奈良県警察本部警備部長に対して、これを送付した。

・「警護警備実施計画書」の作成及び決裁過程において、本件遊説場所で街頭演説をすることに伴って警護上想定される危険については、街頭演説終了後に車両まで徒歩で移動する6月25日警護対象者に対する違法行為等が念頭に置かれるにとどまり、本件遊説場所の南方向への警戒の必要性について具体的に考慮されることはなかった。

・本部警備課は、・・・、本部警備課に警備課長を長とする「警護連絡室」を設置し、身辺警
護員A、B及びCの3名のほか、従事する身辺警護員の氏名等を盛り込んだ「警護警備計画書」の案を作成した。

・6月24日までに、本部警備課課長補佐(身辺警護員B)、本部警備課次席、本部警備課長、警備部警衛警護・危機管理対策参事官、警備部長及び警察本部長は、同計画書を決裁した。

・本件遊説場所で街頭演説をすることに伴って警護上想定される危険については、聴衆の飛び出し、街頭演説終了後に車両まで徒歩で移動する6月25日警護対象者に対する違法行為等が念頭に置かれるにとどまり、本件遊説場所の南方向への警戒の必要性について具体的に考慮されることはなかった。

(3) 警護の実施

・6月25日警護の現場配置に先立ち、奈良西警察署警備課長は、6月25日、同警察署内において、署警護員に対して、無線機に不調がないかを点検すること、聴衆の中に不審者がいないか、あるいは周辺に不審物が放置されていないかなどを確認すること、広く聴衆の動向を警戒すべきこと、大声を出す者への対処要領等を指示するとともに、「警護警備実施計画書」を示しつつ具体的配置場所を指示した。

・署警護員及び本部警備課の担当者(身辺警護員A)は、6月25日午後2時頃
から、・・・、最終確認を実施した。

・自民党奈良県連の関係者との最終確認において、本件遊説場所の南方向への警戒の必要性について具体的に考慮されることはなかった。

・6月25日警護の実施
 街頭演説に関して違法行為や混乱が発生しなかったことから、6月25日警護の実施後、奈良県警察本部及び奈良西警察署において、警護に関する事後の組織的検討や評価を特別に行うことはなかった。

4 6月28日警護

(2) 自民党奈良県連の関係者との間の事務連絡等の状況

・当該選挙カーを背にして、安倍元総理が街頭演説を行うこととなった。

(3) 警護計画の作成(起案・決裁)

・6月27日、奈良西警察署は、6月28日警護に関して、署警護員の配置人数及び具体的配置場所のほか、同警察署に同警察署長を長とする「奈良西警察署警護警備連絡室」を設置すること等を盛り込んだ「警護警備実施計画書」の案を作成した。

・6月27日、奈良西警察署警備課長、副署長及び警察署長は、同計画書を決裁の上、同警察署長は、同日、奈良県警察本部警備部長に対して、これを送付した。

・6月27日、本部警備課課長補佐(身辺警護員B)、本部警備課次席、本部警備課長、警備部警衛警護・危機管理対策参事官、警備部長及び警察本部長は、同計画書を決裁した。

・6月25日警護時には、本部警備課長が警護連絡室長に充てられていたが、6月28日警護については、多くの聴衆が集まることが予想され、本部警備課長が警護の現場に赴くことから、警備部警衛警護・危機管理対策参事官が警護連絡室長に充てられることとなった。

・警護計画の作成(起案・決裁)の過程において、奈良県警察本部は、警護対象者が元内閣総理大臣であることから聴衆が多数に及ぶことは考慮したものの、多数の聴衆が集まることに伴って生じる危険以外の警護上想定される危険について具体的に考慮されることはなかった。

(4) 警護の実施

・6月28日警護の現場配置に先立ち、奈良西警察署警備課長は、6月28日、同警察署内において、署警護員に対して、6月25日警護に係る指示と同一の内容を指示するとともに、「警護警備実施計画書」を示しつつ具体的配置場所を指示した。

・署警護員及び本部警備課の担当者(身辺警護員D)は、6月28日午後5時半頃から、・・・、安倍元総理の車両の停車・降車位置等について最終確認を実施した。

・安倍元総理は、6月28日午後6時45分頃、大和西大寺駅南口に車両で到着し、選挙カーを背にして街頭演説を実施した。

・安倍元総理の到着後、身辺警護員A、B及びDの3名は、警視庁警護員Y及び署警護員と共に、警護に従事した。本部警備課長は、「警護警備計画書」上、警護員として計上されていなかったが、6月28日警護の現場に自ら赴き、同現場の指揮に当たった。

・安倍元総理は、同日午後7時21分頃に街頭演説を終え、帰路に向かって大和西大寺駅に徒歩で移動する際、本部警備課の想定以上に時間をかけて広範囲の聴衆と接しながら支援を呼び掛けた。安倍元総理の街頭演説には、本部警備課の想定を上回る約600人の聴衆が集合したが、当該街頭演説に関して、違法行為や混乱は発生しなかった。

・6月28日警護の実施後、奈良県警察本部及び奈良西警察署において、警護に関する事後の組織的検討や評価は行われなかったが、安倍元総理の街頭演説の聴衆規模、演説終了後における聴衆との接近状況等を踏まえ、以後の警護に当たって、多数の聴衆が集まったときの警戒のほか、街頭演説終了後に徒歩で移動する警護対象者に対する違法行為等への対処を強化する必要があると認識された。

5 本件警護(7月8日) ※事件発生

(1) 事案発生までの経緯

・7月7日午後0時50分頃、自民党奈良県連の関係者から本部警備課に対し、
 安倍元総理が翌8日に奈良県内で街頭演説を行う旨、また、
 同月7日午後4時半頃には、
 大和西大寺駅北口で行う旨の連絡があり、同日中、安倍元総理の来県予定について警察本部長及び奈良西警察署長への報告が行われた。

・7月7日午後0時50分頃、自民党奈良県連の関係者から本部警備課に対し、安倍元総理が翌8日に奈良県内で街頭演説を行う旨、また、同月7日午後4時半頃には、大和西大寺駅北口で行う旨の連絡があり、同日中、安倍元総理の来県予定について警察本部長及び奈良西警察署長への報告が行われた。

・本部警備課の担当者(身辺警護員A)と自民党奈良県連の関係者との連絡では、安倍元総理の車両の乗降位置に関する調整等が行われたものの、本件遊説場所で街頭演説をすることに伴って警護上想定される危険については、6月25日警護と同様に、具体的に考慮されることはなかった。

・本件遊説場所で安倍元総理が街頭演説を実施する予定である旨の自民党奈良県連の関係者からの連絡が実施前日午後7時頃であり、街頭演説場所が6月25日と同一であることから、自民党奈良県連の関係者並びに奈良西警察署及び本部警備課の担当者の間では、本件警護実施の前日、現地における事前の連絡調整は行われなかった。

(2) 警護計画の作成(起案・決裁)

・奈良西警察署は、7月7日午後7時頃から、本件警護に関して、・・・、同警察署に同警察署長を長とする「奈良西警察署警護警備連絡室」を設置すること等を盛り込んだ「警護警備実施計画書」(以下「本件警護警備実施計画書」という。)の案の作成に着手した。

・同警察署は、同警察署における7月8日の勤務体制を勘案し、6月25日警護時から1名減じた数の署警護員を本件遊説場所周辺に配置することとした。

・7月8日午前8時30分頃までに、奈良西警察署警備課長、副署長及び警察署長は、本件警護警備実施計画書を決裁の上、同警察署長は、同日午前8時36分頃、奈良県警察本部警備部長に対して、これを送付した。

・同警察署では、安倍元総理が聴衆と接する際に生じる危険に対して警戒しなければならないことを認識していたものの、
 6月25日警護時に違法行為や混乱が発生しなかったこと、
 安倍元総理に危害を加えることを示唆するなどの具体的な脅威情報に接していなかったこと
から、本件遊説場所の南方向への警戒の重要性、銃器による攻撃への備え等については特に意識されなかった。

・同警察署では、6月28日警護の結果を踏まえて、安倍元総理の街頭演説に関して多数の聴衆が集まることは想定していたが、本件遊説場所付近の周辺警備、交通整理等に従事する制服を着用した地域警察官又は交通警察官(以下「制服警察官」という。)の配置等については検討していなかった。

・本部警備課は、7月7日午後7時頃から、同課に警備部警衛警護・危機管理対策参事官を長とする「警護連絡室」を設置し、

・6月25日警護に従事していた身辺警護員A、B及びCの3名のほか、従事する身辺警護員の氏名等を
盛り込んだ「警護警備計画書」(以下「本件警護警備計画書」という。)の案の作成に着手した。

・身辺警護員A、B及びCの配置場所
 本件警護警備計画書上、
 身辺警護員Aが県道のゼブラゾーン上のガードレールの南東部に、身辺警護員Bが同南西部に、身辺警護員Cが同北東部に、それぞれ配置されることとされた(図3参照)。

図1 計画書上の身辺警護員の配置(出所:報告書)

・また、本件遊説場所の周辺には、署警護員及び配置場所を固定されて本件遊説場所周辺の聴衆の動向を警戒することを任務とする本部警備課に所属する警護員が、本件遊説場所の西側、北西側、北東側及び東側歩道上に配置されることとされた。

・なお、安倍元総理の身辺警護に関連して、安倍元総理本人や関係者から身辺警護員A、B及びC並びに本部警備課及び奈良西警察署に対して、身辺警護員の立ち位置等について指摘や要望が寄せられたことはなかった。

・本件警護警備実施計画書と本件警護警備計画書の間の配置上の差異
 本件警護警備実施計画書では、署警護員のうち1名をバス・タクシーロータリー内の一番北側のバス停車枠の北東部の歩道角に配置することとされていたものの、本件警護警備計画書上では、本件遊説場所の西側歩道上に同人を配置する記載となっていた(図4参照)。
 

・通常、奈良県警察においては、本部警備課と管轄警察署の間の連絡調整により、警護警備計画書及び警護警備実施計画書上、署警護員の配置場所が一致することになるが、本件警護の計画に当たっては、本部警備課と奈良西警察署が署警護員の具体的配置場所について連絡調整することなく、6月25日
警護の配置場所を踏襲して、それぞれ計画書を作成したことから、署警護員1名の配置場所に記載上の差異が生じることとなった。

・しかし、この署警護員については、その配置に係る記載場所にかかわらず、大和西大寺駅北口一帯を広く巡回して不審者の発見等に従事することとされていたため、計画書上の記載場所が本件警護の実施に直接の影響を与えるものではなかった。

図1 警護警備実施計画書と警護警備計画書警の配置上の差異(出所:報告書)

・本部警備課と奈良西警察署との間で配置人員についての調整を実施した結果、奈良西警察署の7月8日の勤務体制の都合上、6月25日警護時と比べて、同警察署の配置人員が1名減少することが見込まれた。

・これを受け、本部警備課は、配置人員数の減少を補完するため、7月7日午後8時30分頃、警備
課次席の判断の下、本件警護警備計画書上、身辺警護員A、B及びCの3名に加え、本部警備課から身辺警護員1名(身辺警護員E)を追加配置することとした。

・身辺警護員Eは、街頭演説終了後、安倍元総理が車両に乗車するまでの間に聴衆と接する際に周囲を警戒し、その身辺を警護すること等を任務として、安倍元総理が街頭演説終了後に徒歩で向かうことが予定される場所であって、聴衆が多く集まると見込まれる本件遊説場所の北西側歩道上に配置されることとなった。

・本部警備課長については、6月28日警護同様、現場において指揮に当たることとなったものの、現場指揮官は、警護の現場において警護員の指揮統率に当たりながらも、自らも警護員として警戒に当たるのが通常であることから、本件警護警備計画書上では、身辺警護員の一人として位置付けられた。

・決裁
 7月8日午前9時頃までに、本部警備課課長補佐(身辺警護員B)、本部警備課次席、本部警備課長、警備部警衛警護・危機管理対策参事官、警備部長及び警察本部長は、本件警護警備計画書を決裁した。

・本件警護計画(本件警護に係る警護計画をいう。以下同じ。)の作成(起案・決裁)の過程では、街頭演説場所が6月25日と同一であったことから、本件遊説場所における警護員の配置については、6月25日警護を踏襲したのみであり、本件遊説場所の南方向への警戒、銃器による攻撃への備え等に関しては具体的に検討がなされず、決裁の過程においても、指摘はされなかった。

・さらに、本件遊説場所付近の周辺警備、交通整理等に従事する制服警察官の配置等についての検討又は指示もなかった。

・また、県道の交通規制について検討はされず、本件警護の当日、県道の交通規制は行われなかった。

・本部警備課では、本件警護計画の作成(起案・決裁)の過程において、警護対象者が元内閣総理大臣であり、6月28日に想定以上に多数の聴衆が集まり、聴衆と接する時間も長かったことを考慮すべきであると認識されていたものの、6月25日警護時に違法行為や混乱が発生せず、安倍元総理に危害を
加えることを示唆するなどの具体的な脅威情報に接していなかったことから、本件警護に関する警護上の危険について、多数の聴衆が集まることに伴って生じる危険又は安倍元総理が聴衆に接する際に生じる危険を除き、それ以上踏み込んだ組織的検討や評価がなされることはなかった。

(3) 安倍元総理の到着前の状況(現場配置前の指示等)

(4) 安倍元総理の到着後の状況

・・・

・午前11時26分頃までの間に、身辺警護員Aは、本件遊説場所南側の県道のゼブラゾーン上(ガードレールの外側)で主として本件遊説場所の南方向を警戒していた身辺警護員Cに対して、同人が県道上を通行する車両と接触する危険及び身辺警護員Cを避けようとして県道上を通行する自転車と自動車が接触する危険を防止するため、ガードレールの内側に移動するよう指示するとともに、本件遊説場所の北東側及び東側歩道上に数多くの聴衆が集まっていたことから、これらの聴衆の動向に対する警戒を強化する必要があると判断し、身辺警護員Cに対して、本件遊説場所の東側歩道上の聴衆の動向を警戒するよう直接指示した。

・これを受け、身辺警護員Cは、ガードレールの内側に移動し、本件遊説場所の南方向への警戒を行いつつも、主として本件遊説場所の北東側及び東側歩道上の聴衆の動向に対する警戒を開始した。

・本部警備課長は、当初、身辺警護員Cが本件遊説場所南側の県道のゼブラゾーン上(ガードレールの外側)で警戒している状況を認識しており、その後、ガードレールの内側で警戒している状況も視認していた。

・身辺警護員Aが身辺警護員Cの配置場所及び主たる警戒方向を変更したことに伴い、本件遊説場所の南方向への警戒は不十分となった。

・午前11時28分15秒頃、候補者による演説が終了し、候補者が演台から降壇した。

・午前11時28分42秒頃、候補者といわゆるグータッチを交わした後、安倍元総理が演台に登壇した。

・安倍元総理の南東で警戒していた警視庁警護員Xは、安倍元総理の登壇の際、午前11時28分42秒頃から同47秒頃にかけて、安倍元総理から南西約2メートルに立ち位置を移動させ、引き続き、主として本件遊説場所の北西側及び北東側歩道上の聴衆の動向を警戒した。

・午前11時29分22秒頃、本件遊説場所において、身辺警護員Aは、安倍元総理の演説開始に伴い、聴衆の飛び出し、聴衆に紛れた者からの違法行為等に一層警戒するため、身辺警護員Aの直近において、主として本件遊説場所の北東側及び東側歩道上の聴衆の動向を警戒していた身辺警護員Cに対して、安倍元総理の演台方向に近付くよう耳打ちして指示した。

・これを受け、午前11時29分24秒頃から同28秒頃にかけて、身辺警護員Cは、本件遊説場所(ガードレールの内側)をガードレールに沿って西方向に約1メートル移動し、安倍元総理の演台方向に近付いて、主として本件遊説場所の北東側及び東側歩道上の聴衆の動向の警戒を継続した。

(5) 被疑者のバス停付近の歩道南進開始後の状況

・身辺警護員Cは、午前11時29分50秒頃、同29分59秒頃から同30分1秒頃にかけて南東方向に顔を向け警戒するとともに、同30分2秒頃から同6秒頃にかけて南西方向から南東方向に顔を向け警戒していた。また、同30分8秒頃から同17秒頃までは東方向に顔を向け警戒し、同18秒頃から22秒頃まで南方向を再び警戒していた。

・午前11時30分25秒頃から同29秒頃にかけて、自転車に乗車した女性1名が県道をバス・タクシーロータリーに沿って西進した際、身辺警護員Cは、同27秒頃から南方向に顔を向け警戒していた。

・同30分39秒頃には工事用車両が、同43秒頃には普通自動車が安倍元総理の演台付近を東進して通過した際も、身辺警護員Cは、南西方向に顔を向け警戒していた。

・・・

・警視庁警護員Xは、安倍元総理の南西約2メートルで周囲を警戒していたが、自転車男性の接近及び一時停車に合わせて、午前11時30分50秒頃、本件遊説場所において東方向に約1メートル移動し、自転車男性からの物の投擲等をはじめ、てき安倍元総理に直接危害が及ぶ事態を想定し、自転車男性と安倍元総理の間に身体を差し入れた。

・警視庁警護員Xは、自転車男性及び台車男性が通過した同31分1秒頃、元の立ち位置に戻り、警視庁警護員Xは、主として本件遊説場所の北西側及び北東側歩道上の聴衆の動向の警戒を再開した。

・身辺警護員Bは、自転車男性がその背後を通過した午前11時30分49秒頃から同58秒頃にかけて、南東方向を振り向いて、通り過ぎた自転車男性の動向を警戒した後、本件遊説場所の北西側及び北東側歩道上の聴衆の動向の警戒を再開した。

・身辺警護員Cも、自転車男性及び台車男性が直近を通過中の同30分56秒頃から同57秒頃にかけて南方向を、自転車男性及び台車男性の通過後の同30分58秒頃から同31分4秒頃にかけて南東方向から東方向の警戒に当たり、自転車男性及び台車男性が本件遊説場所の直近を通過する状況を確認した。

・被疑者は、自転車男性及び台車男性が警視庁警護員Xの南側を通過し、かつ、身辺警護員Cの南側を通過しようとする午前11時30分56秒頃までには、バス・タクシーロータリー内の一番北側のバス停車枠付近から同ロータリーに進入し、そのバス停車枠を通って北西方向に歩き、本件遊説場所に接近した。

・午前11時30分57秒頃には、同バス停車枠の北西部分において、歩きながら、ショルダーバッグの中を見ながら右手を入れ、同バッグ内の中身を確認しつつ、更に北西方向に進行した。

・午前11時31分0秒頃には、・・・、同3秒頃には、同部分を約2.7メートル北進した県道上において、歩きながら、右手でショルダーバッグから銃器様の物を取り出した。

・また、同5秒頃には、被疑者は、県道の中央付近まで北進し、両手で当該銃器様の物を把持し、銃口を演台上の安倍元総理に向けた。

・被疑者が銃口を安倍元総理に向けた時、身辺警護員Aは、引き続き、安倍元総理から東約5メートルの本件遊説場所の北東部において、本件遊説場所の北西側歩道上の聴衆の動向を警戒しており、被疑者が接近し、安倍元総理に対して銃口を向けたことに気付かなかった。

・身辺警護員Bも、引き続き、安倍元総理から西南西約3メートルの本件遊説場所の南西部において、本件遊説場所の北東側歩道上の聴衆の動向を中心に警戒しており、被疑者が接近し、安倍元総理に対して銃口を向けたことに気付かなかった。

・身辺警護員Cについても、安倍元総理から東南東約4メートルの本件遊説場所の南東部において、自転車男性及び台車男性の通過を確認した後、東方向から南方向に顔を向けたものの、南方向に顔を向けた直後であり、被疑者が接近し、安倍元総理に対して銃口を向けていると気付くには至らなかった。

・なお、身辺警護員Cの南側のガードレールには、のぼり旗が2本立てられていたが、午前11時29分28秒頃以降、身辺警護員Cは、のぼり旗の間から南方向を視認できる状況であったことから、のぼり旗の存在が視界の妨げになっていたものではなかった。

・警視庁警護員Xは、最も安倍元総理に近く、南西約2メートルの位置で警戒していたが、自転車男性に対する警戒終了後、北方向に顔を向け警戒しており、被疑者が接近し、安倍元総理に対して銃口を向けたことに気付かなかった。

・本部警備課長は、引き続き、本件遊説場所の南東方向に位置する横断歩道の南側歩道上で、北西方向(本件遊説場所の南側)を警戒していたが、同歩道上には、引き続き、4人の男女が本件遊説場所方向を写真撮影するなどしていたほか、日傘を差すなどした複数の人が立っており、見通しが悪く、被疑者が接近し、安倍元総理に対して銃口を向けたことに気付かなかった。

・そして、いずれの署警護員にあっても、本件遊説場所の北西側及び北東側歩道上の聴衆の動向を中心に警戒し、又は一帯を広く巡回して不審者の発見等に従事していたため、被疑者が接近し、安倍元総理に対して銃口を向けたことに気付かなかった。

・なお、本件警護の現場周辺において、被疑者に対するものを含め、職務質問が実施された事実は確認されなかった。

(6) 1発目の発砲から2発目の発砲に至るまでの状況

・午前11時31分6秒頃、被疑者は、銃器様の物を両手で把持したまま県道を北進
し続け、県道の中央を越えて、安倍元総理から南約7.0メートルの距離から1発目
を発砲した。

・身辺警護員Aは、1発目の発砲音を銃器によるものと認識しなかったが、約1秒後の同31分7秒頃、振り返って被疑者が構える筒状の物を認めた。

・身辺警護員Bは、1発目の発砲音を銃器によるものと認識しなかったが、約1秒後の同31分7秒頃、振り返って被疑者の存在を認めた後、同8秒頃、安倍元総理の演台方向に向かい、警視庁警護員Xと共に、被疑者と安倍元総理の間(以下「射線」という。)に入ろうとした。

・身辺警護員Cは、東方向から南方向に顔を向けた直後に1発目の発砲があり、その直後、銃器様の物を所持する被疑者の存在を認めたことから、被疑者の確保に向かうため、同31分7秒頃、本件遊説場所南側のゼブラゾーン上のガードレールに左手をかけ、当該ガードレールを乗り越えようとした。

・警視庁警護員Xは、1発目の発砲音を銃器によるものと認識しなかったが、約1秒後の同31分7秒頃、振り返り、被疑者の存在を認めたことから、同8秒頃、左手に携行していた防護板(身辺警護員が携行する防弾用資機材であって、警護対象者を銃撃から防護するために用いられるものをいう。以下同じ。)を掲げながら、射線に入ろうとした。

・本部警備課長は、1発目の発砲音を銃器によるものと認識しなかったが、1発目の発砲後、状況を確認するため、本件遊説場所の南東方向に位置する横断歩道の南側歩道上を西方向に向かった。

・本件遊説場所の西側歩道上に配置されていた署警護員のうち1名は、1発目の発砲後に被疑者の存在を認め、同31分8秒頃、県道の車道部分に進入し、被疑者に向かって駆け出した。

・被疑者は1発目の発砲後、更に本件遊説場所に接近し、午前11時31分7秒頃、再度、両手で銃器様の物を構え、銃口を演台上の安倍元総理に向けた。

・安倍元総理は、演台上で、北西方向に向いてマイクを用いて演説していたが、被疑者の発砲を受け、同時刻、演説を中断し、左後方を振り返ろうとした。結果として、1発目について、安倍元総理は被弾しなかった。

(7) 2発目の発砲から被疑者の逮捕に至るまでの状況

・被疑者は、1発目の発砲から約2.7秒後となる午前11時31分8秒頃、安倍元総理から南約5.3メートルの距離から2発目を発砲し、安倍元総理が被弾した。

・安倍元総理は、同9秒頃、演台から降り、同10秒頃、その場に倒れ込んだ。

・・・

・身辺警護員Aは、被疑者の方向に向かおうとしていたところで2発目が発砲された。

・身辺警護員Xは、防護板を安倍元総理との間に近付けることはできたが、射線を遮る前に2発目が発砲された。
 2発目の発砲後、被疑者が確保される同31分11秒頃までの間、次の攻撃に備え、被疑者と演台の間で防護板を掲げ続けるとともに、被疑者の確保を確認した同13秒頃には、演台付近で倒れ込む安倍元総理の下に駆け付け、その救護に当たった。

・身辺警護員Bは、射線に入ろうとしたが、射線に入る前に2発目が発砲された。

・本部警備課長は、本件遊説場所の南東方向に位置する横断歩道の南側歩道上を西方向に向かっていたところで2発目が発砲された。本部警備課長は、2発目の発砲後に被疑者が銃器様の物を手に持っている状況を認めたところで被疑者の確保のために駆け付けようとするも、午前11時31分10秒頃、同横断歩道の南側歩道上で通行人と接触・衝突し、同通行人を転倒させたことから、転倒した通行人に
声を掛けた後、被疑者の確保状況と安倍元総理の状況を確認した。

おわりに・・・

今回は「要人警護①」「安倍元総理の襲撃事件に係る報告書①」をご紹介しました。
事件が発生するまでの経緯が書かれていました。
たいへん重大な事件が発生してしまいました。
筆者によるコメントは、続編にて行いますが、
警察庁は公表できる内容としてたいへん詳細に状況を明らかにされたのではないかと考えています。

次回は、「分析・評価」です。
もし、直接ご覧になりたい読者は、直接「報告書」まで遷移して頂ければ幸いです。
 ▶警察庁Webサイトへ遷移します「警護警備に関する検証・見直しについて『発表資料』
 ▶報告書へ直接遷移します「報告書.pdf」です。
警護警備体制の整備についてもそうかもしれませんが、
安全や警戒といった交通安全や防災・防犯でも他山の石となる受け止めが大切かも知れません。
知った「今がスタートライン!」です。

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