【第81回】 要人警護④:安倍元総理の襲撃事件からみえるもの

事件
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今回は「要人警護④」「安倍元総理の襲撃事件に係る報告書④」をご紹介します。

正式な報告書の標題は、
令和4年7月8日に奈良市内において実施された安倍晋三元内閣総理大臣に係る警護についての検証及び警護の見直しに関する報告書」(2022(令和4)年8月、警察庁)
です。

※報告書より多くを引用しています。

第4 警護の見直しのための具体的措置

総論

第2及び第3の内容を踏まえ、今後の警護において、本件警護と同様の事態を二度と生じさせないようにし、併せて警護の高度化を図るため、警護要則の抜本的見直しを含めた以下の措置を講じることが必要である。

1 警護要則の抜本的見直し

(1) 警察庁の関与の強化

警護に関し必要となる基本的事項は、警護要則に定められている。

警護要則では、
①警察庁は警護対象者の指定を行うのみ
警護の実施はもとより、警護計画の作成やその前提となる危険度の評価を行うための情報収集等を全て都道府県警察に委ねることとしている。

しかし、今般の検証により、
①警護計画や
②その前提となる危険度評価に不備があること、
③現場指揮官の指揮が十分でなかったこと
等が明らかとなり、専ら都道府県警察の責任で警護を実施する現在の仕組みに限界が生じていることから、警護要則を抜本的に見直して以下の仕組みを導入し、警察庁の関与を強化することとする。

ア 情報の収集及び分析等

警察庁が、警護を的確に実施するために必要な情報の収集、分析及び整理を行い、その結果を都道府県警察に通報する仕組みを導入する。

危険度の評価は、一地方の治安情勢だけでなく、国内外の諸情勢の収集及び分析の上で行うべきものである。

特に、現在、インターネットを通じて、誰もが銃器や爆発物の製造に関する情報を容易に入手でき、また、3Dプリンタを用いて銃器様の物を作成できるなど、新たな技術が警護対象者への違法行為に悪用され得るほか、特定のテロ組織等と関わりのない個人がインターネット上の情報に影響されて違法行為を敢行する事例も発生するなど、新たな脅威が生じている中で、こうした脅威については、各都道府県警察による管内の治安情勢の収集及び分析だけでは十分に把握することができない

このため、国内外のテロリズム等警護において想定すべき事態その他の警護を的確に実施するために必要な情報について、警察庁は、国家的又は全国的な見地から収集し、当該情報並びに都道府県警察における情報の収集及び分析の結果について報告を受けた内容の分析及び整理を行い、各局面における警護の重要性も含めて警護上の危険度を評価し、当該評価について都道府県警察に通報することとする

イ 警護計画の基準

警察庁が、都道府県警察において警護計画を作成する場合の基準を定める仕組みを導入する。

警護護計画の作成に当たっては、その前提となる危険度の評価を踏まえ、これに対応できるものとする必要があることから、警察庁による危険度の評価や警護に関する知識・経験の蓄積を、都道府県警察が作成する警護計画に反映させる必要がある。

このため、警察庁は、屋内又は屋外その他の警護を実施する場所の種別、講演、視察、会合その他の警護を実施する場所における警護対象者の行動の態様、警護を実施する場所における不特定多数の者の有無その他の警護の態勢を決定するために重要な事項について、警護計画の基準を定めることとし、都道府県警察が作成する警護計画は、当該基準に適合するものでなければならないこととする。

警護計画の基準については、上記のとおり、警護の態勢を決定するための重要な事項について、例えば、
①街頭演説等の屋外警護、
②不特定多数の者が集まる講演会等の屋内警護
といった状況に応じて、警護対象者への接近防止措置、警護対象者及びその関係者との連携、身辺警護に従事する警護員、不審者の発見、警戒等に従事する警護員、周辺警備・交通整理に従事する警護員等の配置等に係る基準を定めることとする。

また、都道府県警察は、警護計画の作成及び警護の実施に当たっては、警護上の危険度に応じて、警護対象者の日程に関係する場所の実地踏査を行うとともに、警護本部を設置するものとする。加えて、都道府県警察は、現場指揮官を指名するとともに、警護の現場における指揮に必要な権限を当該現場指揮官に付与しなければならないこととする。

ウ 警護計画案の報告等

警察庁が、都道府県警察から警護計画案の報告を受け、必要に応じて修正等の指示を行う仕組みを導入する。

警護計画がイの警護計画の基準に適合することを担保するため、警護上の危険度に応じて、都道府県警察は、警護計画の案を警察庁に報告するものとする。

警察庁は、当該報告を受けた場合には、当該計画案を事前に審査した上で、必要に応じてその修正を指示し、又は警護の実施において留意すべき事項を指示することとする。これらの指示を徹底するために必要な場合には、警察庁職員を警護の現場に派遣することとする。

エ 警護の実施に関する報告等

警察庁は、警護の実施に際し、今後の警護において留意すべき事項について、都道府県警察から報告を受ける仕組みを導入する

警護の実施が安易な前例踏襲に陥ることのないよう、都道府県警察は、警護を実施したときは、当該警護の状況を確認した上で、今後の警護において留意すべき事項その他参考事項を、警察庁に報告しなければならないこととする。

その際、警護の実施後に確認すべき事項をチェックリスト等により分かりやすく例示し、都道府県警察に今後の警護において留意すべき事項等を抽出させて、警察庁への報告が確実になされるようにすることとする。

警察庁において、当該報告も踏まえ、以後の警護に係る都道府県警察に対する指導等を行うこととし、都道府県警察においても当該留意すべき事項等について、以後の警護計画の作成、警護の実施等に反映させることとする。

オ 教養訓練

警察庁が、警護の指揮を行う幹部及び警護員の教養訓練に係る体系的な計画を作成するとともに、警護対象者への攻撃その他の突発事案が発生した場合における措置に関する訓練その他の高度な訓練を行うものとする。

現在、警察庁及び都道府県警察において実施されている警護に関する教養訓練は、受講する職員の職務、経験及び技能に応じて体系化されているものではなくそれぞれの職員に応じて能力向上を図ることが困難であることから、警護の指揮を行う幹部及び警護員の育成のため、警察庁が、これらの教養訓練に係る体系的な計画を作成し、個々の職員がその職務、経験及び技能に応じた実践的教養訓練を受けることができるようにする。

また、警察庁が、警護の指揮を行う幹部に対する教養訓練や、警護対象者への攻撃その他の突発事案が発生した場合における措置(銃声等の識別及び瞬時の回避措置を含む。)に関する訓練等の高度な教養訓練を行うとともに、都道府県警察にも上記の計画に基づく教養訓練を行わせることとし、受講者数も拡充することとする。

また、警察庁は、教養訓練が円滑かつ効果的に行われるよう、所要の調整を行うこととする。例えば、現在、各道府県警察の警護の中核となる警護員に警視庁研修を受講させ、警護に従事させているところ、この派遣者数の大幅な拡充を図る。

さらに、上記の教養訓練の体系化等に合わせ、以下の措置を講ずることとする。

〇警察本部の警護担当課において警護に専従する警察官(警護専従員)について、
 ▶ 警視庁研修又は上記の計画に基づく警護専従員用の教養訓練の受講者を登用すること。
 ▶各階級において受講すべき教養訓練を指定すること。
等の基準を作成し、教養訓練の受講経験とキャリアステップを関連付け、都道府県警察の警護に係る能力の底上げを図ること。
外国の警護当局との共同訓練を定期的に実施することにより、海外における効果的な手法の導入を図ること。

カ 装備資機材

警察庁が、警護の高度化に資する装備資機材に関する情報の収集を行うとともに、その開発及び導入に努めるものとする。

警護において、先端技術を活用した資機材や銃器に対処するための資機材等を活用し、マンパワーの補完を図るため、警察庁が、警護の高度化に資する装備資機材に関する情報収集を行うとともに、その開発や導入に努めることとする。具体的な資機材の例は、以下のとおりである。

○ 警護計画案の審査に資するため、警護の現場の状況を3D画像等で確認することを可能とする資機材
○ 警護対象者への接近や攻撃を企図する者を効果的に把握するため、ドローン等の高所から警護の現場の状況を確認することを可能とする資機材
○ AI技術を活用し、銃器を取り出す行為等の異常な行動や不審者を警護の現場で検知することを可能とする資機材
○ 警護対象者の背面を守る防弾壁、演台の上に設置する透明な防弾衝立、対象者を避難させるための防弾シェルター等の銃器対策強化のための資機材

(2) 警護対象者等との連携の強化

警護における警護対象者の生命及び身体の安全の確保は、警察のみで達成できるものではなく、警護対象者及びその関係者の理解と協力を得た上で警護を実施することが不可欠である。

・・・

警護対象者及びその関係者との連携を強化するに当たり、都道府県警察において、警護を実施する場所において想定される危険、警護対象者直近への身辺警護に従事する警護員の配置及び装備資機材の設置等について説明を尽くし、警護対象者及びその関係者の理解を得ることとする。

また、警察庁においても、行事開催場所の選定、自主警備措置の在り方等、都道府県警察が警護に係る行事の主催者等と調整すべき事項を明らかにした上で、当該調整を促進するため、国レベルでも関係者に対し、こうした事項全般について、働き掛けを行うこととする。

2 体制等の強化

(1) 警察庁

警護について、警察庁では、警備局警備運用部警備第一課警護室が担当している。
現在の同室の体制では、上記の措置を講じ、警察庁の関与を強化することが困難である。

このため、警備局警備運用部に、新たな所属を設置するととともに、警視庁出身者等、警護のエキスパートを登用し、警護を担当する体制を大幅に拡充することとする。

(2) 都道府県警察

警護の強化のためには、警察庁の関与の強化にとどまらず、都道府県警察の現場における態勢を強化することも必要である。

まず、警視庁において、全ての警護対象者について、身辺警護に従事する警護員を大幅に増強し、警護の現場において配置される警護員の強化を図る。また、警視庁において、
○ 警護のエキスパートの警察庁への出向又は派遣
○ 道府県警察からの派遣者の受入れの拡充
等を行う必要があるところ、現在の体制では対応が困難であることから、警視庁警備部警護課の体制の大幅な強化を図る。

加えて、各都道府県警察において、警護の実施に当たり、警察庁及び当該都道府県警察における情報の収集及び分析等の結果を踏まえ、警護対象者に対する危害を想定し、警護対象者の生命及び身体の安全を確保するために必要な態勢を確保することとする。

3 警護の強化に向けた更なる取組

(1) インターネット上の違法・有害情報対策及び爆発物原料対策

警察庁は、インターネットを通じて、誰もが銃器や爆発物の製造に関する情報を容易に入手できる状況を踏まえ、サイト管理者等に対する削除依頼をはじめとするインターネット上における違法情報・有害情報対策や、爆発物原料を容易に入手できないようにするための対策について、関係省庁・関係機関との連携を図りつつ、推進することとする。

(2) 外国の警護当局への調査

今般の見直しに当たり、外国(アメリカ、イギリス、ドイツ及びフランス)の警護当局に対して調査を行い、警護に係る情報収集・分析、警護計画作成における留意事項、警護員の配置・体制、警護現場のリスクに係る評価・対策、突発事案が発生した場合の対処要領、警護実施後の見直し、教養訓練、装備資機材、警護に係る環境の整備等に関する知見を得た

今後も、外国の警護当局へ定期的に調査を行い、警護の高度化に努めることとする。

また、今般の調査結果は有用なものであり、今般の見直しに当たり参考としたところ、その内容は、警護の手法等にかかわるものであることから、外国の警護当局との関係上、本報告書への直接の記載は差し控えざるを得ない

おわりに・・・

今回は「要人警護④」「安倍元総理の襲撃事件に係る報告書④」をご紹介しました。

警護見直しの具体的な内容でした。
①警護要則の抜本的見直し
②警護体制の強化
③警護強化の取り組み
(警護手法等は除いているとのことでした。)

①警護要則の見直しでは、
▶情報の通報
がありました。
都道府県では難しい収集・分析・整理に関して、警察庁がそれを行ったものを都道府県にお知らせするというものでした。

ここで注意が必要なことがあります。
これまで実施していなかった情報系統のため、都道府県が本当に必要とし、警護にとって機微な、あるいは、明らかに有用な情報が実質的にどれほどあるのか?という問いです。

換言すると、都道府県にとって当然必要な情報が流れてくる必要があるものの、分析・整理された情報を通報することが、時間の経過とともにゆくゆく形骸化してしまうというリスクになります。

新系統を新設すると陥る落とし穴でもありますが、新系統が十分に機能していることを示そうとするがために起こる「見せかけの情報系統」として体制が常態化・固定化・形骸化・パターナリズムしてしまうというリスクになります。

次に、
▶警護計画の基準計画案実施報告の見直し
がありました。

基準については、基準にとらわれてしまうというリスク。
(「守破離」の「墨守)になってしまうおそれ。

計画案の報告(都道府県警→警察庁)については、
「計画の基準に適合」することが要件であることから、
「警護計画基準のための警護警備計画書」になってしまう可能性があるというリスクです。

軍事の世界ではたいへん常識的な理解でもありますから、そうならないような考慮が必要だと考えています。

あるいは、「行政ルールのパラドックス」の理論を応用した懸念もあります。
これは、基準を運用する(ポジティブな意味での)「第一線職員の裁量」を制限することにもなってしまうおそれがあり、効果的で融通性ある現場対応を計画が阻害する要因になる可能性があります。

また、警護対象者は政令等で規定されています。
対象者の数と活動の分だけ、計画の報告は発生することになるでしょう。
警察庁警備局警備運用部に新部署が設置され、警視庁警備部警備課も増強改編されるようです。
こうした改編の先に、盤石な警護活動が展開されていことの検証を随時評価していくことも重要なのかもしれません。

実施報告については、
警察庁が都道府県から報告を受けるという新たな仕組みの導入でした。
報告を行う「現場」と報告を受ける「本部」との間の環境や実践の次元の違いから、
この部分の「形骸化・委縮・見かけ上よく見せる」といった落とし穴には注意が必要です。

報告はたいへん重要な行為の一つです。
一方で、報告の導入と時間の経過によって別の作用が働き始めてしまうことへの警戒は必須でしょう。
そうした作用に対する ”察知” と ”好循環への絶妙な介入” もあらかじめ考慮しておくのが望ましいかもしれません。
知った「今がスタートライン!」です。

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