【第82回】 要人警護⑤:安倍元総理の襲撃事件からみえるもの

事件
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今回は「要人警護⑤」「安倍元総理の襲撃事件に係る報告書⑤」をご紹介します。

正式な報告書の標題は、
令和4年7月8日に奈良市内において実施された安倍晋三元内閣総理大臣に係る警護についての検証及び警護の見直しに関する報告書」(2022(令和4)年8月、警察庁)
です。

※報告書より多くを引用しています。

第5 今後に向けて

総論

警護の見直しのための具体的措置は第4のとおりであるが、これに加え、今後の警護について、特に以下の事項に留意することが必要である。

1 警護の不断の見直し

今般、第4に記載された措置を講ずることにより警護の高度化を図ることとしているが、これに加え、今後、警護対象者への違法行為に悪用され得る技術の進展や、武器製造方法等をはじめとした警護対象者への違法行為に悪用され得る情報が更に容易に入手できるようになること等により、警護をめぐる情勢がより厳しいものとなる可能性が考えられる。

このような情勢の変化に的確に対応し、警護対象者の生命及び身体の安全を確保するため、警察庁は、最新の知見を取り入れつつ、警護について不断に見直しを行う

2 警護対象者等との更なる連携

現在、インターネットが普及し、誰もが警護対象者の日程を容易に入手できる環境となっている中で、警護対象者の生命及び身体の安全を確保するためには、今後、警護対象者及びその関係者との連携を一段と強化していくことが求められる。

特に、警護現場においてはあらゆる場面で警護対象者に危害が発生し得ることや、警護対象者への攻撃その他の突発事案が発生した際には、警護対象者自身が危害を回避するための行動をとることが有効であることについて、警護対象者及びその関係者の理解及び協力を得ることが重要である。

このことを踏まえ、警察庁は、警護対象者への攻撃その他の突発事案が発生した場合の対応等をはじめ、警護対象者及びその関係者との更なる連携を図る。

3 警護についての国民の理解と協力を得るための努力

警護の万全を期すに当たっては、警護の現場で警護員が執る様々な措置について、国民の理解と協力を得ることが不可欠であることから、今後、更に積極的かつ適切に情報発信を行うよう努める。

4 警護についての国家公安委員会への報告

今般、警護要則の抜本的見直し等により、各種の具体的措置を執ることとしているところ、警察庁において、これらの措置が確実に実施されているかを常に点検し、その状況について定期的に国家公安委員会に報告する。

巻末

凡例

身 辺 警 護 員 A

本部警備課に所属する警部補。
1発目の発砲時、本件遊説場所において本件警護に従事していた。

身辺警護員Aは、平成22年に横浜で開催されたAPEC首脳会議、平成28年に開催されたG7伊勢志摩サミット、令和元年の天皇陛下の御即位に伴う儀式等及び同年に開催されたG20大阪サミットについて、関係都府県警察に派遣されて警護に従事していた。

このほか、令和4年中、本件警護の前日までの間、約20回の警護に身辺警護員として従事しており、うち6回が令和4年参院選の公示日以降のものであった。

身辺警護員Aは、平成21年以降、管区警察局に設置された専科教養課程を1回、管区訓練を4回及び県専科を5回受講していたほか、平成21年から同22年にかけて警視庁研修を受講していた。

身 辺 警 護 員 B

本部警備課に所属する警部。

1発目の発砲時、本件遊説場所において本件警護に従事していた。

身辺警護員Bは、APEC首脳会議及びG7伊勢志摩サミットについて、関係県警察に派遣されて警護に従事していた。

このほか、令和4年中、本件警護の前日までの間、約20回の警護に身辺警護員として従事しており、うち6回が令和4年参院選の公示日以降のものであった。

身辺警護員Bは、平成19年以降、管区訓練を1回及び県専科を3回受講していた。

身 辺 警 護 員 C

本部警備課に所属する巡査部長。

当初、本件遊説場所南側の県道のゼブラゾーン上(ガードレールの外側)で本件警護に従事していたが、1発目の発砲時までにガードレールの内側に移動していた。

身辺警護員Cは、業務上、災害対策を主に担当しているが、これまでも身辺警護に従事しており、G20大阪サミットについて、大阪府警察に派遣されて警護に従事していた。

このほか、令和4年中、本件警護の前日までの間、6回の警護に身辺警護員として従事しており、うち3回が令和4年参院選の公示日以降のものであった。身辺警護員Cは、平成23年以降、管区訓練を2回及び県専科を2回受講していた。

本 部 警 備 課 長

警視。

本部警備課長は、令和4年中、本件警護の前日までの間、2回の警護に従事しており、全てが令和4年参院選の公示日以降のものであった。

本部警備課長は、平成9年、県専科を1回受講していた。

警視庁警護員X

警備部警護課に所属する警部補。

1発目の発砲時、本件遊説場所において本件警護に従事していた。

警視庁警護員Xは、これまで警護に関する教養訓練を受講したことはなかったが、これまで、平成24年12月から同27年10月まで及び平成27年10月から同28年3月まで、それぞれ他の警護対象者の身辺警護に従事していたほか、令和元年10月から同2年9月まで安倍内閣総理大臣の警護に従事していた。

令和2年9月から安倍元総理の身辺警護を担当し、令和4年中、本件警護の前日まで、約140日間、安倍元総理の身辺警護に従事していた。

【記載上の制約】

安倍元総理に対する銃撃事件については、令和4年8月25日時点において捜査継続中のため、検証に当たって参照した写真、映像等には、本報告書において公にできないものが含まれる。本文中の図及び別添図については、当時の現場周辺の状況を明らかにするための参考資料であり、実際の縮尺や位置関係とは異なる可能性がある。

また、警護の具体的内容には、公にすれば、将来の警護において対抗手段を講じられるおそれがあり、本報告書において公にできないものが含まれる。

被疑者がロータリー沿いの歩道上を南方向に移動開始(別添図1)

図1.被疑者がロータリー沿いの歩道上を南方向に移動開始(出所:報告書)

被疑者が右手で銃器様の物を取り出し(別添図6)

図2.被疑者が右手で銃器様の物を取り出し(出所:報告書)

被疑者が1発目を発砲(別添図7)

図3.被疑者が1発目を発砲(出所:報告書)

おわりに・・・

今回は「要人警護⑤」「安倍元総理の襲撃事件に係る報告書⑤」をご紹介しました。

第5「今後に向けて」ということで、今後の取り組みなどが報告されていました。

一方で、「記載上の制約」として、
「警護の具体的内容には、公にすれば、将来の警護において対抗手段を講じられるおそれがあり、本報告書において公にできないものが含まれる。
との但し書きがなされました。

つまり、本報告書が、問題点を洗い出し、そして、対策を明示しているものの、これらはそのすべてではないということです。

また、第2に記載がされましたが、
分析・評価においては、問題の所在
①「現場における警護の問題」及び
②「警護計画上の問題」に分けて検討する。

ということでした。

これが意味するところはすなわち、
(1)現場における警護の問題
(2)警護計画上の問題
ではない部分の問題の所在は、本報告書において言及されていない
ということも【第79回】で記載をしました。

これは(1)と(2)ではない部分の分析・評価が行われているかは不明であること、
もしも(1)と(2)ではない部分の分析・評価が行われていない場合は、今後の改善にリスクが残ってしまう可能性があること
を理解しておく必要性を提起しておきます。

例えば、「運輸安全委員会」という組織が国土交通省の外局にあります。
この委員会は、事故を調査することは警察と変わりないように一見すると見えるのですが、
ミッションとしては、
「適確な事故調査により事故及びその被害の原因究明を徹底して行い、勧告や意見の発出、事実情報の提供などの情報発信を通じて必要な施策又は措置の実施を求めることにより、運輸の安全に対する社会の認識を深めつつ事故の防止及び被害の軽減に寄与し、運輸の安全性を向上させ、人々の生命と暮らしを守ります。」(出典:運輸安全委員会HP内の「ミッション」
とあります。
つまり、
▶今後将来にわたって、事故が起こらないようにするため
▶今後事故が起こったとしても、被害が最小限に留められるように、
事故調査を行っています。けっして、犯人捜しや、ダメ出しをするためのプロセスではありません

換言すると、
どこをどのように改善することで事象は起こらないようにできるのか?
どの部分に問題のきっかけ原因・要因・誘引相互関係・相互作用関連性があったのか?
を広く、深く考察することにより、
同じような事態同じ結果二度と起こらないように分析・評価」しています。

今回の報告書は、そういった知見を背景に検証・検討されたのかは不明です。
あるいは、その部分の公表が難しかったという事情があったのかもしれません。
仮にそういった知見を背景に検証・検討されていたとすれば、
具体的措置の内容が、大きく異なってくるところも多々ある。
ということもここでは言及しておきたいと思います。

例えば、本報告書における問題の所在として「現場における警護の問題」が検証されました。
【第79回】にも記載したように、
主因が「後方(南側)警戒の空白
と評価しています。(出典:報告書p21)

一方で、主因に至った経緯として、
・身辺警護員Aによる身辺警護員Cへの立ち位置・警戒方向の変更指示
・身辺警護員Aは、南方向への警戒を補強する対応措置を取らなかった
・本部警備課長(現場指揮官)が、後方(南側)警戒の空白が顕在化していることに気づきながら処置を行っていなかった
ことが列挙されています。

ここに、”安全委員会的な” 分析視点を適用してみます。すると、
・身辺警護員Aが行った身辺警護員Cへの変更指示の理由として、
 「県道上を通行する車両と接触する危険」
 「身辺警護員Cを避けようとして県道上を通行する自転車と自動車が接触する危険を防止するため」
 「本件遊説場所の北東側及び東側歩道上に数多くの聴衆が集まっていたことから、これらの聴衆の動向に対する警戒を強化する必要があると判断」
 本報告書では、「身辺警護員Aがこの指示を行ったことは、警護実施上の判断として、それ自体には相当の理由があると認められる。しかし、同時に、当該指示によって本件遊説場所の南方向への警戒が極めて不十分になることは明らかであることから、身辺警護員Aは、現場指揮官である本部警備課長に対して、身辺警護員又は署警護員の配置を要請するなど、本件遊説場所の南方向への警戒を補強する対応措置を執る必要があったと認められる。すなわち、当該指示を行ったにもかかわらず、これに伴って必要となる対応措置を執らなかったことが後方警戒の空白を生じさせた要因であると認められる。」(出典:報告書p23)と結論付けています。

また、警護計画上の指摘として、
・「警護上想定される危険として、具体的には本件遊説場所の南側に警護上の危険があることは明らかであったが、本件警護計画の作成(起案・決裁)の過程では、この危険が見落とされ、本件警護計画には明らかな不備があった。このため、警護員等が適切に配置されず、制服警察官の配置についての検討もなされなかった。この点についても、本件警護の現場において、後方警戒の空白を生じさせることとなった要因であると認められる。」と結論づけています。(出典・報告書p27)

そこで、筆者としては次のように分析を進めることが大切という見方です。
・行われた変更指示の変更理由に上がったリスク変更に伴う任務遂行上の新たに生じたリスクの比較分析が行われたのか否か、行われていなければなぜ行われなかったのか?
・身辺警護員A、身辺警護員Cだけではなく、・・・
・本部警備課長は身辺警護員Cの立ち位置変更を気づいたにもかかわらずその危険再評価を行ったのか否か、行っていないとすればなぜ行わなかったのか、行っていないとすればこれまでも同様の ”行っていない” ケースはなかったのか、行っていないケースにおいて違法行為等や不審者の発見に至っていない事実についてはいったいどういった要因があったのか、行うべき危険再評価視点要件は何か、・・・
・警視庁警護員Xが身辺警護員Cの立ち位置が変更されたことを、把握していたか、気づいていたか、気づいていないとすればなぜ気づかなかったか、知っていたとするとそのとき危険再評価を行ったのか、危険再評価を行っていないとすればなぜ行わなかったのか、・・・
・計画の作成の過程において、危険が見落とされたた原因は何か?。起案者・決裁権者という属人的な原因か、あるいは決裁プロセスに原因が内在するのか・計画策定における構造に原因があるのか、各種の場所・環境か、過去のイベントにおける警護等経験に基づく経験則か、警護の原則事項か、警護方法か、養成課程か、普段の練成訓練か、業務の多忙さか、形骸化か、過去の計画の中に普遍性は見いだせるか・・・
といったような検討結果になってくると考えられます。(ほんの一例の紹介として)

これらはすべて、具体的措置として反映されていくことになるわけです。

さきほどもありましたが、本報告書において公にできない内容があることは事実ですし当然です。
そのため、部内においてこういったようなアプローチにて十分に検討されていることを信じています。

次に、「警護対象者の指定」についてです。
これが実は筆者の考える最重要の見方になります。

この「警護対象者の指定」は、警護要則等で定められているという受け止めです。
その中でも、特定の対象者が具体的に規定をされています。
安倍元総理も「総理大臣経験者」として「指定要人」の対象となってたと思われます。
そこで筆者は、警護対象者に対する警護態勢のあり方への見直しが必要ということを強調いたします。
現状は「その身辺に危害が及ぶことが、国の公安に係ることとなる・・・」とあります。
見直しの方向性は「国の公安」のほか「(国家安全保障その他国(や地域)の安全に係ることとなる・・・」という対象枠組の規定があってもよいのではないかと考えています。

安倍元総理は、総理大臣の在任期間が歴代1位です。
この意義は過ぎるくらいに大きいです。
みなさんもご存じのとおり、歴代1位にはたいへん大きな理由があり、意味があります。
もちろん批判をされるような部分があるではないか。とお考えの方もおられるのかもしれません。
ですが、歴代1位の実績が持つ価値が、計り知れないほどに大きいということは否定できないのです。
これは、総理を退任した後もなお、外交、内政だけにとどまらない重要な存在価値・影響力なのです。
これからの世界情勢、各地域情勢などを鑑みるとそれは明らかだったのではないでしょうか。
そう遠くない将来「安倍さんがいてくれたら世界は変わっていたかもしれない。」とならないように。
国として、そういった俯瞰した観点から各省が役割遂行・連携していくことが本当に大切です。
この考え方は、警護対象、警護の実態に関する件に関わらない広い意味でになります。

そういった重要な存在価値を確実に警護していくということは、国益そのもの。

こういった理解の中で、警護体制を整備することはとても大切なのではないでしょうか。
知った「今がスタートライン!」です。

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