「宇宙天気予報」は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)により運営されています。
NICTは、ICT(情報通信技術)分野を専門とする公的研究機関です。
総務省の所管です。
東京都小金井市に所在しています。
今回は、「宇宙天気予報」についてご紹介します。
宇宙天気予報とは(概要)
宇宙天気現象
「宇宙天気」とは、ザックリいうと「太陽の活動」のことです。
それでは、もう少し具体的にみていきましょう。
「宇宙天気現象とは、太陽から到来する現象や地球周辺で発生する現象であり、その変動は日常的に発生している。しかし、太陽フレア爆発等、稀に発生する現象によって宇宙空間の状態に大規模な変動が発生し、それらが地球全体に影響を及ぼすことがある。」(出所:「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書)と説明されています。
宇宙天気予報
このような一連の自然現象を「宇宙天気」と呼び、その現況把握及び予測を「宇宙天気予報」と呼んでいます。(出所:NICT)と定義されています。
宇宙天気予報の実際
図1は、「宇宙天気予報」の予報画面です。(出所:NICT)
予報されている項目には、
①太陽フレア
②プロトン現象
③地磁気擾乱
④放射線帯電子
⑤電離圏嵐
⑥デリンジャー現象
⑦スポラディックE層
があります。
現在の太陽の状態も見ることができます。
▶動画1:フレア(コロナ)
▶動画2:プロミネンス(菜層)
▶動画3:黒点(光球)
それでは予報されいている項目をそれぞれ見ていきましょう。
①太陽フレア
太陽表面で起こる大爆発の現象のことです。
黒点付近で発生することが知られています。
②プロトン現象
「太陽から相対論的エネルギーに加速された陽子を発生させる現象をいう。太陽フレアの際に太陽近傍で加速されるか、コロナ質量放出に伴う衝撃波によって加速されると考えられている。大規模なプロトン現象は、陽子がもつエネルギーの大きさから地球磁場に守られた内部磁気圏まで到達して、人工衛星などの宇宙機の誤動作や故障を引き起こすことがあり、また地球の極域に侵入することにより電波の伝播異常を引き起こす。」(出所:天文学辞典)
③地磁気擾乱
「地磁気は、電離圏・磁気圏などの宇宙空間を流れる電流に対応して変動します。この電流の変化は、地磁気嵐やオーロラ活動など様々な宇宙天気現象の表れであるため、地磁気変動は宇宙天気予報にとって重要な情報です。地磁気変動の大きさを指数化することで、宇宙天気現象の特徴や規模が分かりやすくなります。K指数は、1つの観測所での地磁気の乱れ具合を3時間毎に指数化したもので、0から9までの10段階の値で表わされます。宇宙天気予報では、気象庁柿岡地磁気観測所のK指数を利用しています。」(出所:NICTchannel)と説明されています。
したがって、地磁気が太陽活動(宇宙天気現象)により影響を受けたレベルを表示しています。
④放射線帯電子
放射線電子とは、数百 eV 以上、通常は、MeV のエネルギーを持った電子群のこと。
静止軌道、中・低軌道上を動く衛星は、宇宙からの放射線電子によって強い影響を受けます。
深部帯電が進行すると、永久故障に陥ってしまう衛星がこれまで多数報告されています。
⑤電離圏嵐
「太陽フレア(太陽表面の大規模爆発)によって放出されるX線、極紫外線、高速陽子、高速プラズマ流などが地球周辺環境に与える大規模擾乱(じょうらん)現象の一つ。電離圏の大規模な乱れで、地磁気の乱れと並行しておこる。電離圏嵐がおこると、電波伝搬が乱され、短波無線通信は著しく障害を受ける。」(出所:コトバンク)
⑥デリンジャー現象
「太陽フレアが発生し、それにより増大したX線や紫外線による大気の電離効果のために、地球の昼側にある電離層のD層の電子密度が増加し、長距離通信に使用される周波数3 MHzから30 MHzの短波帯に通信障害が発生すること。」(出所:天文学辞典)
デリンジャー現象により、短波放送、船舶無線、航空通信、軍用無線等で影響を受ける可能性があります。
⑦スポラディックE層
「スポラディックE層(以下、Es層と略す)とは、高度100km付近の電離圏下部に突発的に出現するプラズマ密度の高い層のことです。この層の出現により、隣町の防災無線放送が混信したり、アナログ方式だったころのテレビでは画像が乱れたこともあったそうです。」(出所:JAXA)
「Es層の存在は数十年前から知られ、垂直構造は理解されていますが、水平分布は観測が難しく、現在でもよく理解されていません。」(出所:JAXA)
「スポラディックE層」は、陸上特殊無線技士のときに目にする用語でもあります。
アマチュア無線でもあったかもしれません。
見通し線を越えて電波伝搬することから、
思いがけない遠くの人と無線交信ができる場合があるというお話しです。
用語
磁気嵐
「磁気嵐は、太陽からやってくるプラズマの風、太陽風が強い南向きの磁場を伴っている時に、地球磁気圏に生じる大規模な変動現象です。磁気嵐が起こると、中低緯度の地磁気の南北成分が半日から数日間にわたって減少します。この地磁気の変動は、磁気圏内の対流運動が活発になり、磁気赤道上空の内部磁気圏領域を西向きに流れる電流が増大することにより生じます。磁気嵐の原因となる太陽面現象は、大きく分けると2種類あります。1つは、太陽からの大規模なコロナガス噴出現象、CME現象です。CME現象によって、強い南向き磁場を伴うコロナガスが地球に到来すると、磁気嵐が発生します。もう1つは、太陽コロナ中の温度が低い領域、コロナホールです。コロナホールは、軟X線や極端紫外線を使って、太陽コロナを観測した時に暗く見える領域です。コロナホールからは、通常よりも速い速度の太陽風が噴き出しており、これに南向きの磁場が伴うと磁気嵐が発生します。磁気嵐に伴って、電離圏や放射線帯も大きく変動し、通信障害や人工衛星の故障などが生じることがあるため、宇宙天気予報センターでは、太陽や太陽風を観測し、磁気嵐の予報を行っています。」(出所:NICTchannel)
太陽電波バースト
「太陽電波バースト」とは、太陽フレアやCMEの発生と同時に引き起こされる電波発射のことです。
(出所:NICTchannel)
「太陽フレア(太陽表面で起こる大爆発)やCME(コロナガスの大規模噴出現象)の発生は、同時に強い電波放射を引き起こします。この電波放射は、太陽電波バーストと呼ばれています。非常に強い太陽電波バーストは、GPS衛星からの測位信号を受信する際のノイズとなり、GPS衛星を使った測位に影響を与えることがあります。一方で、太陽電波バーストは、CMEの発生や、太陽近傍での衝撃波の形成、それらの伝搬速度などを知る手がかりにもなり、宇宙天気予報のための重要な観測データのひとつとなっています。現在、情報通信研究機構では、観測できる周波数範囲が異なる3基のアンテナを用いて、太陽電波バーストを観測し、太陽フレアやCMEの発生のモニタリングを行っています。太陽電波バーストの観測データは、太陽フレアやCMEの発生や伝搬の研究にも役立てられています。」(出所:NICTchannelをもとに筆者修正)
宇宙天気現象による生活への影響
図2は、宇宙天気現象により起こる、障害や影響の内容です。
宇宙天気現象には、発生してから地球への到達時間がわかっています。
▶ 太陽風(フレアX線放射):8分
▶ 太陽風擾乱:2~3日
▶ 高エネルギー粒子:30分~2日
地球はそもそも、地場で守られているということです。
その地場(磁気圏)が通常の状態ではなくなることで、さまざまな影響が出てきます。
▶衛星障害
▶衛星軌道変動
▶宇宙飛行士等被曝
▶衛星測位障害
▶航空路変更、船舶航路障害
▶通信障害
▶送電施設障害
などです。(図2をもとに筆者修正)
おわりに・・・
太陽の活動=宇宙天気現象は私たちにたいへん大きな影響を与えることがわかりました。
その影響への監視・観測・警報という役割を「宇宙天気予報」が担っているわけです。
過去には、災害も起こっています。
1989年3月の磁気嵐では、アメリカの気象衛星の通信が止まったり、
カナダでは電力網が破壊され、復旧には数か月を要しました。
2020年2月にはスペースX社の人工衛星49基のうち40基が機能停止に陥りました。
宇宙で起こっている現象は、私たちにとって目で見て肌で感じることはできません。
しかし、宇宙天気現象がもたらす影響は、私たちにとってとても深刻なレベルに進む可能性をもっています。
そこで、宇宙天気現象が起こったことと、生活への影響をあらかじめ知っておくことで、
停電による備えや、移動時の代替手段の考慮など準備はできる可能性があります。
停電が長期間続く影響はとても深刻ですから、
「宇宙天気予報」という仕組みを知っておくことも
ひとつの防災の生活習慣化(生活習慣防災)としてたいへん有効なのではないでしょうか。
知った「今がスタートライン!」です。