【第31回】 ハインリッヒの法則①:法則を知ることで「予防」と「防災」に取り組もう!

原則(principle)
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今回は「ハインリッヒの法則」と「予防災」でお話しします。

ハインリッヒの法則」はたいへん有名なのはみなさんもご存知かもしれません。

もしも初見という方は、これを参考に「予防災」実践されてみてはいかがでしょうか。

ハインリッヒの法則

「ハインリッヒの法則」とは

「重大事故が1件発生する背景には、
 軽微事故が29件発生しており、その背後には、
 ヒヤリハットが300件発生している。」

というものです。

図1.ハインリッヒの法則(出所:写真AC)

「ハインリッヒの法則」の由来は?

提唱者は、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ(アメリカ人)です。

傷害保険会社に技術・調査部副部長として勤めていたときに発表した論文が起源です。

「同じ人間の起こした同じ種類の330件の災害のうち,300件は無傷で,29件は軽い傷害を伴い,1件は報告を要する重い傷害を伴っていることが判明した。」(出所:Wikipedia)

利用されている分野

労働災害、労働安全衛生、危機管理、医療、製造業、カスタマーセンターなど

エラーが起こる実際とは

医療現場を参考に

ヒヤリハット事例】(出所:厚生労働省「リスクマネジメント作成指針」)
…患者に被害を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で、“ヒヤリ”としたり、”ハッ”とした経験を有する事例。
具体的には、ある医療行為が
 ①患者には実施されなかったが、仮に実施されたとすれば、何らかの被害が予測される場合、
 ②患者には実施されたが、結果的に被害がなく、またその後の観察も不要であった場合

等を指す。

と書かれています。

医師が間違った薬を処方しても、事前に間違いが発見され、患者には投与されなかった場合などは、間違いがあっても患者に影響しなかったということで、ヒヤリハット事例として分類されます。
これらのヒヤリハット事例を減らすことが、重大事故防止につながるとされており、ヒヤリハット事例を報告し、収集することがたいへん重要とされています。
医療では「インシデント」「アクシデント」という言葉を使います。
「インシデント」は一般に、小さな事故から大きな事故まで含みますが、
医療安全では「ヒヤリハット事例」を含む軽微な事故を「インシデント」
被害が大きな場合を「アクシデント」と区別しています。

ヒューマンエラー

人間が犯してしまう誤りのこと、言い換えると、
「人間だからこそ発生させてしまう誤りのこと」

原因…
能力、経験、判断ミス、疲労、多忙、注意力低下、判断力低下、間違った行動、失念…など

ヒューマンエラーの原因分類

①「人間の特性」が原因

▶ 生理学特性によるエラーの発生
  人間には一日のサイクルの中にエラー発生の落とし穴時間が存在します。
  特に、明け方は注意力・判断力が低下するとされています。

▶ 認知的特性によるエラーの発生
  聞く、見る、覚えるなどの認知機能に基づくものです。
   例)目薬と水虫薬を間違える
  思い込みが強い場合にも起こります。
   例)佐藤さんと加藤さんといった名前が似ていて間違える
  加齢により認知機能に過大な負荷がかかることで情報処理の正確性が低下することがあります。
   例)作業中に別の指示が入ると前の作業を忘れてしまう

▶ 集団的特性によるエラーの発生
  集団で動いていると人に頼ってしまう、
  確認しているつもりでも誰も見ていなかったなど

②行動パターンによる分類

▶ スキルベースのエラー
  例)実行段階で判断・技能・注意力に問題があって起きるエラー
▶ ルールベースのエラー
  例)ルールを間違って適用、ルール自体が間違っていてそれを適用して起きるエラー
▶ 知識ベースのエラー
  例)方法やルールを知らないで起きるエラー

③計画・実施段階による分類

▶ スリップ
  計画通りに行動したが、実行段階で間違ってしまう
   例)数え間違い、設定ミス
▶ ラプス
  計画していたが、実行を忘れしまう
   例)食前薬を飲もうと準備したが、電話が入って対応して飲むのを忘れる
▶ ミステイク
  計画自体に誤りがある
   例)結果的に正しくない行動をしてしまうこと

④ルール違反

厳密には、ルール違反はヒューマンエラーではありません。
しかし、ヒューマン由来としてのエラーとしてみてみます。
 例)スピード違反が常態化、そして事故へ

ヒヤリハットを減らしてアクシデントを防ぐ!

①「『人間の特性』が原因」への対処

▶ 生理学特性によるエラー
  リスク時間帯を可能な限り避ける行動計画を立てる。
  作業前後に休憩をとる。

▶ 認知的特性によるエラー
  聞き返す(復唱する)、見る・覚える(声だし確認)
  タイマーをかけてその場所に戻るように予定変更する。
  付箋紙で作業中のメモ書きを残す。
  同僚に情報を共有してサポートを得る。

▶ 集団的特性によるエラー
  確認すべき行為を横着せずに声出し確認(指差し呼称)を日常化する。
  小規模流動的な作業でもその場で責任の所在を明確にしてから作業を行うことを日常にする。

②行動パターンによる分類

▶ スキルベースのエラー
  事前の教育・研修・訓練
  休憩を適宜にとる
  ダブルチェック・トリプルチェックを取り入れる
▶ ルールベースのエラー
  計画作成段階で上級者が関与する
  計画作成後に関係者で回覧・共有するステップを入れる
▶ 知識ベースのエラー
  事前の教育・研修・訓練

③計画・実施段階による分類

▶ スリップ
  ダブルチェック、時間の余裕を確保しておく、指差し確認
▶ ラプス
  準備作業を中断するような急用が入った場合、
  別の者が対応する、別の者が準備を交代する、
  タイマーをセットしておく、付箋紙で表示する、
  同僚に一声かけておく
▶ ミステイク
  計画には第2者によるチェックを入れる。

④ルール違反

ルール違反は、すでにヒヤリハットの中にいるといえます。
ルール違反を同僚同士で注意し合ったり、
コンプライアンス研修を取り入れたり、
定期的に上位者による面談を通じてコンプライアンスの強化を図ることは大切です。
ルール違反をいけないことだと認識できない人も数の中にはいます。
事の重大性や、深刻さの度合いを軽んじる性格傾向のある人もいます。
そういった場合は、適材適所、人事配置で工夫と配慮が必要になります。
つまり、エラー発生予防の実施者として、管理者が全面的に実行を担うというケースです。
本人ではどうにもならないケースということで、その見極めは管理者にとってとても重要です。

おわりに・・・

ハインリッヒの法則から、重大事故の芽を摘んでしまうための視点を確認しました。
些細なことを放置していると、いずれ積もり積もって取り返しのつかないことになります。
いわゆるエスカレーションして最悪シナリオに進んでいくところを止めるための努力です。
人間は、最初の頃は緊張しますし、ぎこちないですし、時間かかりますし、へたくそでしょう。
また、慣れてくれば、横着しますし、雑になることもあるし、余裕ぶって要点を飛ばすかもしれません
カッコよくみせたり、早くできること至上主義になることもありましょう。
そういった、本来の正規路線から少しずつ逸脱していくプロセスに目を向ける必要があります。
本人、隣人、同僚、部署内、組織内…として、
上下左右の風通しの良い関係がこれを可能にしてくれます。
「未熟なためにできないこと」に対して「怒る」対応をする人をみたことがあります。
これこそ、組織内としてあってはならない光景です。
未熟な人への対応は、習熟するための感化善導です。
怒りをぶつける場面ではありません。
また、そういった状況があることを放置している職場も要改善/危機的状況といえます。

ハインリッヒの法則では、人間のヒューマンエラー、特に当事者に目を向けることが多いです。
一方で、ヒューマンエラーの中でも、
組織や職場の体質・雰囲気・文化・習慣・風習・人間関係にも
目を向ける必要があります。
職場に、重大事故発生の芽があることを意味しています。
そこで、目を向けるだけでは不十分ですから、
職場内の体質改善にもしっかりと手をつけることが、
ヒヤリハット削減、ひいては重大事故の未然防止にきわめて重要だと筆者は考えています。
いろいろな視点や方法で事故防止を!
知った「今がスタートライン!」です。

下は今回「医療安全学」の参考図書です。入門書としてとてもわかりやすく書かれています。
ご参考にどうぞ

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