【第36回】 交通事故②(高齢者):交通事故の傾向を知ることで被害予防につなげよう!

事故
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今回は「交通事故(高齢者)」です。

交通事故にもさまざまな ”傾向” があります。
これは、統計データから明らかになっています。

そういった ”傾向” を知ることで交通事故による被害をできるだけ小さくしていきたい

”傾向” を知ることで、これまで見過ごされていたような配慮を少しずつでも取り入れて、お互いにリスクを回避できるようになるといいな。という提案です。

そのように思っています。

死亡交通事故の推移

交通事故死者数とその推移

図1.交通事故死者数と人口10万人当たりの交通事故死者数の推移(平成18~28年)(出所:内閣府

このグラフは、日本全体の交通事故死者数(左図)と
10万人当たりの交通事故死者数の推移を
全年齢層と65歳以上の高齢者で比較したものです。

交通事故死者数とその推移からみた傾向

平成28年の交通事故死者数は3,904人でした。
昭和24年以来67年ぶり4千人下回ったということです。

人口10万人当たり死者数は、高齢者を含め全年齢層減少傾向にあります。
しかし、高齢者人口そのものが増加しているため、
死者全体のうち高齢者の占める割合上昇傾向にあります。
平成28年では、過去最高の54.8%となった

歩行中/自転車乗車中の交通死亡事故

イメージ図

図2.歩行者・自転車衝突死亡事故のイメージ図(出所:内閣府

歩行者が、あるいは、自転車乗車中での事故の起こり方をイメージ化しています。

昼夜間別の横断中死亡事故の車両進行方向別件数

図3.昼夜間別の横断中死亡事故の車両進行方向別件数(平成28年)(出所:内閣府

歩行者の横断中の事故では、交差点、単路のいずれでも、高齢者高齢者以外より多いです。
夜間は、左からの進行車両と衝突する事故がとても多発しています。
特に高齢者の件数が多いことがわかります。

昼夜間別の交差点出会い頭衝突事故における直進自転車に対する自動車進行方向の比較

図4.昼夜間別の交差点出会い頭衝突事故における直進自転車に対する自動車進行方向の比較(平成28年)
(出所:内閣府

自転車乗用中の事故も、
夜間自転車が交差点直進中左からの進行車両と衝突する交通死亡事故の割合が高いです。
特に高齢者において顕著となっている傾向があります。

年齢別の横断中死者における歩行者の法令違反内容(人口10万人当たり)

図5.年齢別の横断中死者における歩行者の法令違反内容(人口10万人当たり)(平成28年)
(出所:内閣府

前提として、死亡に至っていない事故はこの図にカウントされていません。
したがって、難を逃れ、事なきを得ているケースが他にもあることをご承知おきください。
(高齢者が一方的に悪者になってしまわないよう配慮しています。)

高齢歩行者等側の直前直後横断、横断歩道以外横断等が、
高齢歩行者等が左からの進行車両と衝突する死亡事故が多い要因の一つとして考えられています。
(出所:内閣府)

年齢が高くなるとともに法令違反が多くなり、特に高齢者では走行車両の直前直後横断、横断歩道以外横断等の法令違反によるものが多くなる傾向があります。(出所:内閣府)

「自転車乗用中の交差点での出会い頭衝突事故についても同様に、年齢が高くなるとともに法令違反が多くなり、高齢者では一時不停止や信号無視等の法令違反によるものが多くなる傾向があることから、加齢による身体機能の変化等のみられる高齢者がこれらの違反により事故に遭いやすいことが考えられる。」(出所:内閣府)
とありました。一方で、「年齢が高くなるとともに法令違反が多くなり」という考察は一概に言えないのかもしれません。このデータは死亡事故を前提に整理されており、ヒヤリハット事例(事故にはならなかったケース)、インシデント事例(軽微な事故のケース)、アクシデント事例(重症のケース)はデータに入っていません。法令違反であっても死亡しなかった、いわゆる、高齢者以外の年齢層が難を逃れたケースの結果が示されていないためです。つまり、「法令違反があった中で、結果として高齢者が死亡事故に至ってしまうケースが多い」という考察になると筆者は考えています。(高齢者の法令違反が多いことを示すデータが不足しているという意味です。実際には多いのかもしれませんが、今回のデータではその部分を読み取れませんでした。ご理解ください。)

高齢者の交通社会に関連する特徴

反応速度のムラ~20歳代との比較から~

図6.20歳代と比較した反応速度のムラの比率
(出所:交通安全BOOK、2022年5月改訂)

交通安全BOOKによると、高齢者の運転特性が書かれています。
その中に、
「反応と加齢」という項目では、
高齢になるにしたがって反射的動作のスピードが遅くなり反応が速い人と遅い人の反応速度のムラも大きくなります20歳代のドライバーとその比率を比較すると60~69歳で2.64倍70~79歳で3.79倍になっています。」とあります。
つまり、個別性の出現が顕著になるということが理解できます。
高齢になると反応速度の遅い人が出現する割合が大きくなることを示していますが、
十把一絡げに ”高齢者は” という表現をしてしまうことは慎まなければなりません。

誤反応の比率~20歳代との比較から~

図6.20歳代と比較した際の誤反応の比率
(出所:交通安全BOOK、2022年5月改訂)

交通安全BOOKによると、高齢者の運転特性が書かれています。
その中に、
「反応と加齢」という項目では、上記に加え、
判断の速さと正確さが低下する」と記載されています。
「自動車の運転など、複雑な作業を同時に行う場合には、認知・判断・動作の速さが加齢に伴って遅くなり正確さ低下します。」
誤反応をする人の割合については、20歳代と比較すると60~69歳で2.56倍70~79歳では3.00倍と高齢者は著しく多くなっています。」

まとめ

(出所:交通安全BOOK、2022年5月改訂)

【高齢者の一般的特性】は、
▶事故傾向として、
・交通社会で過ごす高齢者人口が増えていること
・免許人口に占める割合の中で、高齢運転者が起こす事故率が増加していること
・高齢者が加害者となる、被害者となる割合が増加していること
・事故類型では、他の年齢層と比べて出会い頭右折事故、横断事故の割合が高まっていること
・法令違反別では、他の年齢層と比べて一時不停止・信号無視・優先通行妨害等の割合が高まっていること
・高齢運転者ほど死亡事故の割合が高まること

▶事故原因として、
・車が通行していることを見落としてしまう
・車の走行速度を間違って認識してしまう
・信号・標識を見落としてしまう
・機敏で巧みな行動がまだできるという錯覚がある
・気づいてから行動するまでに時間がかかる

▶運転特性
・過去(若いとき)の経験にとらわれる傾向がある
・疲労時の回復力が低下してくる

が挙げられています。

【視力と加齢】は、
・動体視力の低下
・視野が狭くなる傾向、さらに、スピードが上がるとさらに狭くなる特徴との悪循環
・明度の差(コントラスト)を見分ける力の低下
・暗順応の低下(明るいところから暗いところへ入ったときの適応反応度が低下します。)
・眩惑(まぶしくて目がくらむ)が増大します。

おわりに・・・

高齢者の交通社会生活における一般的傾向がわかりました。
また、高齢者に関係する事故の特徴もわかりました。
高齢者がハンドルを握ることを主に扱っているようにも見える内容でした。
高齢者を十把一絡げ(ひとくくり)にしたような文面をしばしば目にすることがありますが、
高齢運転者ひとりひとりの状況に対して個別的に評価することの大切さを筆者は感じています。
一方で、高齢者のグループでみたときには、若者世代との差が明らかにあるわけですから、
そのような傾向があること、自分にも起こり得ること、
…それらはしっかりと押さえておかなければなりません。
高齢者は、身体機能に低下があることは医学的にも証明されているわけでして、
当事者はこういう現実をしっかりと受容(受け止める、自分事にする)する心持ちも大切です。

ただし、自分の機能低下の変化に気づくことができないような認知異常がある人もいます。
あるいは、機能低下を受け入れられないタイプの人もいます。
そういった人が、高齢者人口の増大とともに増加していることは現前たる事実です。

以上から、さまざまな変化要因に対する交通事故の変化傾向を読み解くことで、
わたしたちの日々の交通社会での予防にもたいへん重要なヒントがあると考えています。
ドライバー、歩行者、自転車乗車中のそれぞれのふるまいの中に、
事故傾向を知った上での生活と対策という両輪でなされた実践があるのではないでしょうか。
KYT(危険予知トレーニング)ということを自動車学校で聞いたことがある人も多いのかもしれません。他にも多様な場面で使われているトレーニング手法です。
自分の交通社会でのふるまいの中に潜む、さまざまな危険要因をふまえて、
日常生活に反映していただきたいと思います。

交通事故は相互作用です。
自分と自分以外(人・車・自転車・物・環境)との相互作用です。
自分の動きと相手の動きにリスクが存在したときに被害が発生します。
自分も含めて、自分以外の人・車・物・環境は常に変化しています。
その変化している中に、どうか、危ない一瞬が噛み合ってしまわないような行動パターンをぜひ作り上げていって欲しいと思っています。

大切なことを付言しておきたいと思います。
それは、今回のお話しはけっして交通社会の高齢者を悪者にしようとする意図はありません。
むしろその逆です。
高齢者にも十分に安全で交通ルールを遵守したドライバーや交通社会人がおられるわけです。
ただ、多くいる高齢者の中には、少数ですが
身体機能や勘違いによる運転レベルが低い方、
交通違反(斜め横断、赤信号で横断、信号点滅後に横断開始)などの
いわゆる「加害者予備軍」(時には被害者予備軍)がいる。
という兆候(サイン)を認識するということです。
この「加害者予備軍」から自分の安心を守ろうとする試みが今回の紹介になります。

また、そういった、加害者予備軍をしっかりと社会が補足できるような、
家族や知人や社会による仕組みづくりも大切になっていると考えています。
その意味で身近な人によるアプローチは本当に大切だと思っています。
高齢者だから免許返納を促すという十把一絡げアプローチではなく、
高齢になり、リスクがどのようにあるのかを評価した上で、
その人にとって必要な対策を促すことができるような試みを提案したいと思います。
高齢者にもその方の生活があるわけでして、
社会的傾向を何でもない特定の個人に当てはめることはけっしてあってはなりません。
対策もさまざまあるでしょう。
 ・明るい時間帯を選ぶ
 ・天候不良(大雨、台風、雪など)のときは運転・外出を控える
 ・通勤/登校/下校/帰宅時間帯の運転や移動を避ける
 ・ブレーキアシスト機能をつける
 ・安全確認がしやすい車に乗り換える
 ・全方位ドライブレコーダーをつける
 ・定期的な運転傾向の振り返りを行う
 ・運転傾向をときどき何気ないタイミングでチェックする
 ・車体のキズを確認する
 ・同乗者をつける
 ・使い慣れた道を使うよう心掛ける
 ・長距離移動は極力控えるか、ゆとりある運転計画にする、交代ドライバーをつける
 ・ゆとりをもった生活をする
 ・眼科での健康診断を定期に受ける
 ・教習所で受講するなど第3者のアドバイスを受ける
 ・横断歩道を渡るように心がけてもらう
 ・…
高齢者の自尊心や自己効力感や自己肯定感を、
社会のせいで低下させてしまうことがないような先入観決めつけのないアプローチが大切です。

知った「今がスタートライン!」です。

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