今回は「認知症」をリスクとしてみた「交通事故」がテーマです。
認知症という病気を知ることで、交通社会に潜むリスクを知りましょう。
そして、リスクを知ることで、交通事故の予防につなげていきましょう。
認知症
認知症とは
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。(出典:厚生労働省)
認知症にはいくつかの種類があります。アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。症状はもの忘れで発症することが多く、ゆっくりと進行します。
次いで多いのが脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症です。障害された脳の部位によって症状が異なるため、一部の認知機能は保たれている「まだら認知症」が特徴です。症状はゆっくり進行することもあれば、階段状に急速に進む場合もあります。また、血管性認知症にアルツハイマー型認知症が合併している患者さんも多くみられます。
認知症の種類(主なもの)
アルツハイマー型
▶脳内にたまった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳に萎縮がおこります。
▶【症状】
①昔のことはよく覚えていますが、最近のことは忘れてしまいます。
②軽度の物忘れから徐々に進行し、やがて時間や場所の感覚がなくなっていきます。
脳血管性認知症
▶脳梗塞や脳出血によって脳細胞に十分な血液が送られずに、脳細胞が死んでしまう病気です。
▶高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主な原因です。
▶【症状】
①脳血管障害が起こるたびに段階的に進行します。
②障害を受けた部位によって症状が異なります。
レビ-小体型認知症
▶脳内にたまったレビ-小体という特殊なたんぱく質により脳の神経細胞が破壊されおこる病気です。
▶【症状】
①現実にはないものが見える幻視や、手足が震えたり筋肉が固くなるといった症状が現れます。
②歩幅が小刻みになり、転びやすくなります。
前頭側頭葉型認知症
▶脳の前頭葉や側頭葉で、神経細胞が減少して脳が萎縮する病気です。
▶【症状】
・感情の抑制がきかなくなったり、社会のルールを守れなくなるといったことが起こります。
65歳以上は5人に1人が認知症に
概要
年をとるほど、認知症になりやすくなります。
日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計されています。
2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。
高齢社会の日本では認知症に向けた取組が今後ますます重要になります。
また、認知症は誰でもなり得ます。
認知症への理解を深め、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる「共生」(認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また認知症があってもなくても同じ社会でともに生きるという意味)の社会を創っていくことが重要となります。
(出所:厚生労働省、知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス)
認知症の推定人数・有病率の将来予測
(注):「各年齢の認知症有病率が上昇する場合」は、糖尿病(認知症の危険因子)有病率が、2012年から2060年までに20%上昇すると仮定したものです。
図2のように、生活習慣病のひとつである糖尿病が認知症の危険因子となっています。
糖尿病の有病率をもとに認知症の上昇率(推計)が行われています。
高齢者の約5人に1人が認知症という予測は、
社会に与える影響の大きさをあらゆる面で示唆する推計データとなっています。
交通社会と認知症の関係
年齢階層別交通事故件数
若年層による事故が最も目立つものの、「70~74歳」以上では、運転者の年齢が高いほど交通事故件数が多いことが分かります。
年齢階層別死亡事故件数
先ほどの図3の交通事故件数について、対象を死亡事故に限定すると、
下図のとおり、「70~74歳」以上で、運転者の年齢が高いほど交通事故件数が多い、
という傾向がより顕著になります。
とくに「85 歳以上」は、「16~19歳」と同程度事故を起こしていることが分かります。
死亡事故の発生に認知機能の低下が影響している
75歳以上の運転者で、年齢が上がるにつれて事故を起こしやすくなるのは、加齢による心身機能の変化が影響しているためと考えられます。
そのうちの一つに認知機能の低下があげられます。
2019年に死亡事故を起こした75 歳以上の高齢運転者の直近の認知機能検査の結果から、
▶第1分類(認知症のおそれ)
▶第2分類(認知機能低下のおそれ)
であった人の割合は39.9%を占めており、
全受検者の25.2%と比較して高いことから、
高齢運転者による死亡事故の発生には認知機能の低下が影響を及ぼしていると考えられています。
まとめ
認知症の現状がわかりました。
高齢化に伴う、認知機能が低下している人の数は有意に増加しています。
また、現状として交通事故、交通死亡事故の原因になっていることもわかりました。
現にこういった状態があること、そして、今後もさらに増加の傾向が続くことから、
それぞれ個人個人が交通ルールを守るだけでは、事故を防止できないということは明確です。
こうした社会特性を考慮し、
交通社会人として生きる読者の皆様には、ぜひ、
▶交通ルールを守らない人がいること
▶交通ルールを守っていると認識しながら交通違反をしている人がいること
▶自分が交通ルールで交通社会人として過ごしている人
が存在していることを認識しておくことが大切のようです。
いわゆる、「性善説」で交通社会生活を送ることそのものがリスクであるということです。
もちろん、交通ルールを遵守する交通社会人は多くいます。
しかし、数の中にはそういった交通自己ルールでいる人もいるという事実です。
そういった意味で、漫然と交通社会を生活することがたいへんリスクを伴っていることを心得ておく必要があるのではないでしょうか。
おわりに・・・
今回は「認知症」をもとに交通事故を説明しました。
「第36回交通事故(高齢者)」とともにご参考にしていただければと思います。
認知機能が低下するという背景・原因があって交通ルールを逸脱してしまうケースでした。
交通社会には、認知機能低下という背景がなくても交通ルールを逸脱している人はいます。
そういった「意図的な交通違反者」への警戒も重要です。
例えると、自分は信号機青で進んでいても、そうではない人がいるということです。
たいへん困ったものではありますが、交通社会に存在してしまっている以上、
そして、どんなアプローチしても意図的交通違反者がなくならない以上、
その部分をふまえて予防災実践は大変重要な視点になると考えています。
認知症と言えば「高齢者」がまず頭に浮かびます。
若い人でも、認知症が発症することも忘れないようにしましょう。
そういった認知機能の変化に気づくことができるのは、
身の回りにいる人びとですので、
ぜひそのような兆候がある場合には、
専門家への相談や、
やさしくご本人にアプローチをするなど試みていただくことをオススメしておきます。
知った「今がスタートライン!」です。