今回は「宿命災害」をご紹介します。
日本において、(日本だけではないのですが)
「災害」はたいへん見聞きする機会が多いのかもしれません。
あるいは、実際に被災経験をされた方も多いのかもしれません。
そうした、実は「災害」は当たり前と思っている「平穏な生活」と表裏一体
であることを注意喚起する記事になります。
日本の地理的・災害史的な状況
自然災害という宿命
図1は「自然災害による死者・行方不明者数」について、
1945(昭和20)年から2021(令和3)年の期間まとめたものです。
死者行方不明者が千名~万人単位で発生していることがわかります。
期間の切り取り方にもよりますが、
少なくとも、時代が進み、災害対策が進んだことをもって、
大災害が発生しなくなった。とは言えない現状がわかるのではないでしょうか。
表1は「自然災害による死者・行方不明者内訳」です。
表からは、
▶風水害
▶地震・津波
▶火山
▶雪害
▶その他
という災害種別の整理です。
マグニチュード6以上の震源分布
図2は「世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界」です。
日本地図が震源分布で隠れてしまっているように、
日本で発生するM6以上の地震がたいへん多いことがわかります。
世界で発生するM6以上の地震回数のうち20.8%が日本です。
(出所:内閣府)
世界の火山の分布状況
図3は「世界の火山の分布状況」です。
こちらは、図2と相関してきますが、
日本に火山の分布が集中していることがわかります。
日本の活火山は111あります。
世界全体に占める日本の活火山数は7.0%です。
(出所:内閣府)
日本の平野・平地が意味するもの
日本の川
川の地形を「源流」→「河口」でみると図4になります。
①源流付近に降った雨
②低いところに集まる
③川となって深い谷を刻む
④上流部から中流部に流れていく
⑤河岸段丘や谷底(こくてい)平野をつくる
⑥谷の出口では「扇状地」をつくる
⑦平坦な下流部へ流れる
⑧下流部では土砂が堆積し「氾濫平野」「自然堤防」を作る
⑨海に流れる
氾濫平野
「氾濫平野」とは、
▶「過去の洪水によってつくられた平野」のことです。
資料によると
「農業を営む人々にとって、川の周囲に広がる平野は水の確保も容易で耕作に適した場所です。古来より人々は平野に農地をつくって生活してきました。この平野の多くは、上流部・中流部から運ばれてきた土砂がたまってできた地形です。何度も洪水が繰り返され、そのたびに土砂などが堆積したため、現在の平らな土地ができたのです。このように、洪水時に川の水があふれてできた平坦な土地を氾濫平野といいます。」
(出所:国土地理院)
平野は過去「海」だった< 関東平野 >
▶原始(縄文)
「縄文時代前期には、温暖化により海面が数メートル上昇し、関東平野にはさいたま市付近まで海が入り込んだといわれています。」
「縄文時代中期後半以降、気候が寒冷化し海岸線が徐々に後退し始めます。」
「海岸線の後退に伴って陸地化した場所には沖積平野が形成され、また海が取り残されたところは、干潟や湖となっていきました。」
「縄文時代の終わり頃から弥生時代の初め頃にかけて、こうした海退(海岸線の後退)はさらに進んだと考えられています。」
▶古代(弥生・古墳)~大和
「海退によって出現した湿地や沖積平野は初期の水田稲作にとって絶好の耕地となりました。」
「集落も台地上から平野部に進出するようになります。」
▶奈良~室町
「人口増加にともない、居住地や耕地が低平地にも拡大してきた時代です。」
「耕地は水を得やすいように湿地周辺につくられたために水害を受けやすく、この頃から洪水との戦いが始まりました。」
▶戦国~江戸
「治水や土木の技術が発達するにつれ、大河川の氾濫によって生まれた平野で水田開発が始まり、各地で河川の特徴に応じた治水事業が進められました。」
「また、大河川を水源とする大規模な灌漑施設が作られ、新田開発がさらに進められました。」
▶江戸時代の大河川改修
「大和川は、度重なる洪水を背景に、付け替え工事が1704年から行われ、わずか8ヶ月で竣工しました。」
「この大改修で、旧流域の新田開発が進んだ一方で、排水不良による新たな洪水被害や、土砂流出による堺港の埋没などの問題が発生することになりました。」
(出所:国土交通省「川と人との関りと歴史.pdf」)
「淀川」も昔は海だった< 大阪平野 >
淀川流域の発展の過程においては、幾多もの、人々と水害との戦いの歴史がありました。
▶海と湖の底にあった大阪平野(古代)
「約7000~6000年前の縄文時代前期の大阪平野は、海水面の上昇(縄文海進)によって、河内湾と呼ばれた海の底にあり、現在の上町台地は半島のように突き出ていました。縄文時代中期、河内湾は、海面の後退とともに、北東から流れ込む淀川や南東から流れ込む大和川などが運ぶ土砂の堆積により徐々に埋まっていきました。やがて、河内湾は大阪湾と切り離されて河内潟へ、約2000年前以降の弥生時代中期には、淡水化し河内湖となりました。その後も堆積は続き、河内湖の陸地化は進み、長い歳月をかけて沖積平野が形成されたのです。」
(出所:国土交通省淀川河川事務所)
まとめ
地理的・災害史的経緯をもとに
「沖積平野」とは、「主に河川による堆積作用によって形成された地形」です。
日本では、
「洪水時の河川水位より低い沖積平野を中心とした高度な土地利用が行われており,国土面積の約1割にすぎない河川の氾濫区域に,現在,人口の約50%,資産の75%が集中するなど我が国の経済・社会活動の中枢になるべき地域の多くが水害及び土砂災害の危険性を内包している。」
(出所:内閣府)
沖積平野に限らず、人びとが住居を構え、生活や労働の基盤を置くと土地もまた、
「氾濫平野」の解説にもあるように、河川のさまざまな現象によって、
形成された土地ということになります。
つまり、私たちが生活するほとんどの土地は、災害が隣り合わせにある、
いつでも災害にあう可能性が十分にある土地だということです。
平野の成り立ちでは河川を主に扱いました。
地震のリスクがない土地もまたありません。(【第17回】地震ハザードステーション)
火山災害も、地域的な事象としてみることができないこともあります。
したがいまして、私たちの土地は、日本の土地は、
▶いつでも
▶どこでも
災害が平穏な生活と同様の意味をもって日常に定めとして運命づけられている。
ということでもあります。
そういった、たいへん身近な現実として受け止めて、
日本においては
▶どこにいても
▶どこへ行っても、
災害への準備(例えば、避難、備蓄など)をある程度のレベルで整えておくことは、
たいへん重要な心掛けになるのではないでしょうか。
【書籍】ウルリヒ・ベック『危険社会』(1998)
「宿命としての危険」(出典:ウルリヒ・ベック(1998)、危険社会)
「危険や被害は知らない間にそこかしこに忍び込んで、…」
「一種の『文明社会の宿命としての危険状況』が生じている。」
「われわれは、その宿命に捕らえられて、あらゆる手をつくしても、それから逃れることはできない。」
「宿命としての危険」という項がありました。
そこで書かれた文を一部引用しました。
これは一般に科学技術の進歩を前提とした危険という「宿命」に言及したものです。
本稿では、「土地がもつ宿命」、「時代が宿命」という主旨で「宿命」を使っています。
そこで生活するからこその、科学技術の進化とともに顕在化してくる災害のことです。
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おわりに・・・
今回は「宿命災害」をご紹介しました。
筆者は、少し大げさな表現を用いながら、
「日本において、人びとが住む場所のほとんどはほぼ水に流されたことがある。」
という例えをします。
つまり、
私たちは「平穏な日々」を享受しています。
あるいは、
毎年あたり前に訪れる季節の移り変わり「四季」を享受しています。
それと同じくらい「災害」も ”あたり前に起こりうる出来事” なのです。
それが、日本が地理的にもっている「宿命」「さだめ」といえるのかもしれません。
日本は海の恵みや山の幸や水や土地などといった自然の恩恵を受けています。
これまでもそうでしたし、これからも変わらないでしょう。
それと同様に、
日本は自然の災厄の影響も受けています。
例外なく、これまでもそうでしたし、これからも変わらないでしょう。
この普遍的な現実を本稿では「宿命災害」と名付けました。
今回ご紹介した資料とあわせて、
そういった現実をなんとなくでも構いません、
ご理解をして頂けた方もいるのではないでしょうか。
また、時代の進歩は、科学技術を進化させました。
水害や自然災害だけではなく、
▶停電
▶断水
▶通信ダウン
▶インフラダウン…
といった、科学技術が複雑に絡んだ形態での災害をもたらすことがあります。
インフラダウンは、自然災害同様、生命にとってハイリスクな事象です。
そういった意味で、必要な準備(訓練、備え、備蓄など)をオススメします。
個人、家庭、企業、学校などあらゆるレベルでよろしくお願いします。
最後に、
▶どこにいても
▶どこへ行っても
という言葉を使いました。
健常者といわれるような、マジョリティーが利用できる準備だけではなく、
視覚や聴覚などの身体にハンディキャップをもつ方も利用できる準備を進めて欲しいと思います。
初めて訪問した土地、
慣れてない大都市、
出張先、
旅行先、
修学旅行先・・・・など、
交通機関を降りたとたん、
その場所にどのようなリスクがあるのか、
北の方角はどこか、
どの方向が安全なのか、
一目瞭然に理解できるのか、
どの建物は垂直避難できるのか、
どの建物に備蓄はあるのか、
どの建物に電気があるのか、
車いすで利用できるのか、
聾(ろう)者、盲(もう)者にとって安全か、
高齢者も安心して時間を過ごすことができるのか、
外国人は認識できるのか、
など、いろいろな視点で取り組みがあることを期待しています。
検討の範囲を考える際のヒントは「【第61回】グラデーション型選択肢」です。
「スペクトラム様」「まだら」「バラツキ」をもって生活しているさまざまな特性を包摂した検討と対策が進むことを期待しています。
筆者は警戒レベル(色、リスク度、音響信号、発光信号…)を
国際規格にすることが望ましいと考えて機会があるときに訴えております。
知った「今がスタートライン!」です。