【第86回】 長周期地震動:緊急地震速報に追加されました!

サイレン
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今回は「緊急地震速報に追加された『長周期地震動」をご紹介します。

緊急地震速報は、その警報音として「【第13回】防災の警報音」で解説しました。

本稿は、2023年2月1日から「長周期地震動階級」が緊急地震速報の発表基準に追加されたお話しです。

その追加された目的をおさえて、安全で安心な対策の実践につなげていきましょう!

長周期地震動

長周期地震動とは?

図1 長周期地震動の特徴(出所:政府広報オンライン

図1は「長周期地震動の特徴」を表しています。

物体には、それぞれに固有の「1揺れにかかる往復時間」=「周期」があります。

建築物、構造物にも同じく、それぞれの構造に応じた揺れの「周期」があります。
固有周期

地震により「揺れ」が発生しますが、その「揺れ」はさまざまな周期をもって伝播します。

長周期地震動とは、
「大きな地震では船に乗っているような周期の長い揺れが発生します。」
(出所:政府広報オンライン)と解説されています。

長周期地震動の特徴としては、
 ▶マグニチュードが大きい地震ほど長い周期の揺れが大きくなる
 ▶地震が発生した場所から数百キロメートル離れた場所でも大きく長く揺れる
 ▶ビルの高層階ほど揺れやすい
(出所:政府広報オンライン)と解説されています。

実際にこんなことが起こりました~2011年3月11日発生、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)~

図2 東京都内の同じビルにおける低層階と高層階の被害状況(出所:工学院大学)

図2は「東京都内の同じビルにおける低層階と高層階の被害状況」ということで被害比較の写真です。

「実際、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では、東京23区最大震度5強)の高層ビルで、天井の落下、スプリンクラーの故障、エレベーターの障害などが起きています。」

「さらに、震源から約700km離れた大阪市最大震度3)のビルの高層階でも、エレベーター停止による閉じ込め事故、内装材や防火扉が破損するなどの被害が発生しました。」

と説明されています。

長周期地震動に定義された「階級」とは?

「階級」…4つのレベル

図3 長周期地震動階級の解説(出所:気象庁

気象庁は、「長周期地震動」の「階級」を定めました。
  =長周期地震動階級

長周期地震動階級4つです。(図3)

※14、15階建て以上の高層階の建物を想定している。とされています。
※実際の地震をもとに、
  ▶室内での行動難度
  ▶什器の移動・転倒状況
  ▶内装材の破損等

 を聞き取り等により整理したものです。

現象表現は、
  ▶階級1 やや大きな揺れ
  ▶階級2 大きな揺れ
  ▶階級3 非常に大きな揺れ
  ▶階級4 極めて大きな揺れ
ということです。

室内の状況は、
  ▶階級1 ブラインドなど吊り下げものが大きく揺れる。
  ▶階級2 キャスター付き什器がわずかに動く。
       棚にある食器類、書棚の本が落ちることがある。
  ▶階級3 キャスター付き什器が大きく動く。
       固定していない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがある。
  ▶階級4 キャスター付き什器が大きく動き、転倒するものがある。
       固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。

さらに、
  ▶階級3 間仕切壁などにひび割れ・亀裂が入ることがある。
  ▶階級4 間仕切壁などにひび割れ・亀裂が多くなる。
と説明されています。
(出所:気象庁

警報(緊急地震速報)の発表例①~何が変わったの?~

図4 長周期地震動が追加された緊急地震速報の一例(出所:気象庁

図4は「長周期地震動が追加された緊急地震速報一例」をあらわしています。
今後変わってくる部分が、「赤丸〇」のような地域。ということでした。

「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の観測データからシミュレーションした結果です。この場合、大阪府南部では震度の警報基準に達しませんが、長周期地震動階級では警報基準に達します図中赤円内)。そのため、新たな発表基準では大阪府南部にも緊急地震速報(警報)が発表されることになります。」(出所:気象庁

警報(緊急地震速報)の発表例②~どう変わる?~(緊急地震速報「長周期地震動にも警戒」ver.)

図5 緊急地震速報(長周期地震動にも警戒)ver.(出所:日本テレビ)

図5は「緊急地震速報(長周期地震動にも警戒)」が発表されたときのテレビ画面上のイメージ画像です。(日本テレビから引用しています。)

「緊急地震速報が出されたと想定したテレビ画面のイメージでは、震源は、三陸沖でありながら、大阪北海道など広い範囲が対象となっていました。 また画面右下には、「長周期地震動にも警戒」という文字も出ていて、通常の揺れに加えて、震源から遠く離れた地域でも長周期地震動の階級3以上の揺れが発生する可能性があるということになります震源から遠くても、高層階にいる人は家具から離れるなど、身を守る行動をとることが大切です。」(引用:日本テレビ)と解説されていました。

地震の震度「階級」と長周期地震動「階級」は同じ意味?→【結論】色階級は同じでも、意味は違う!

「階級」を比較してみえてくる問題点

図5 震度と長周期地震動階級(置き換え可能か?)(出所:気象庁

図5は「(地震)震度と長周期地震動階級が置き換え可能か?」(出所:気象庁,p28)になります。
地震震度階級と長周期地震動階級の内容を比較した表です。

【結論】置き換え不可能
でした。

つまり、「色」に関して、
「地震震度」と「長周期地震動」が相関していない。
ということになります。
誤解や先入観に引っ張られないように気をつけましょう。

一方で、建物には固有周期(固有の揺れやすい揺れの周期)があります。

固有周期は建物によって違う。と冒頭でも解説しました。
建物は、固有周期と近い周期の地震動に揺すられ続けると、次第に揺れが大きくなります。
この現象を「共振」といいます。
この「共振」は、高さ60メートルを超える高層建築物での大きな揺れの原因になります。

したがって、
 ▶今後の大規模地震の発生や、
 ▶「緊急地震速報(長周期地震動にも警戒)」の実際の発表
の際に経験値として蓄積されてくると考えます。
あるいは、問題点などが明らかになってくると思われます。
(これまでの「後追い」型検証、「発災後に想定外扱い」という経験から)

長周期地震動階級追加した今回の警報が、
 どのような防災行動につながり、
 あるいはつながらなかったのか?

結果として、
 ▶事なきを得た、あるいは、
 ▶たいへん大きな被害
  ・什器等の転倒による圧死
  ・共振によりさまざまな要因により建物外放出転落が起こった
  ・高層建築物の半壊倒壊避難経路崩壊などが発生してしまった?
などが今後考えられる望まない結果になります。

筆者としては、大きな被害の発生前に、避難や周知(啓蒙)や地域防災計画やマニュアル等のために、被害軽減に資する資源をあらかじめ投入して先行的に被害検証「先取り」型検証)を行っておくこと推奨しています。(私見でした)

「『色』に込められた意味」と「『警報』に込めた2つの警告主旨」の問題点

緊急地震速報では
最大震度が5弱以上または最大長周期地震動階級が3以上予想された場合に発表する
(出所:気象庁

本稿では、この
 ▶最大震度が5弱以上  ・・・・・・警告主旨①
 ▶最大長周期地震動階級が3以上・・・警告主旨②
定義します。

警報が発表されたときに
 ▶ここは震度5弱以上の強い揺れが来るのか?
または、
 ▶長周期地震動の階級3ないしは階級4が来るのか?
どちら、あるいは、両方該当しているのか?

ひと目見たときに「すぐに理解ができるのか?」という問題です。

速報(警報)は、
避難行動(命を守る行動)に直接かつ極めて重大な影響を与える性質のものですから、
その警報の主旨を理解することに、現状では多くの人が手間取ってしまうようなことにならないか?
と、たいへん心配しています。

「震源から遠いから」、とか
「震源から適度に遠いから『長周期の方だ』」、とか
実は両方(強い震度と長周期地震動の大きな揺れ)に該当するケースも考えられる(想定される)わけなのですが、情報の受け手が誤ったメッセージとして理解してしまったり、当局や報道サイドがその部分の整理を十分にせず情報を送った場合など、さまざまな問題が起こってきそうです。

現状としてどこまでその整備が進んでいるのかは確認できませんでした。
今後の情報に期待したいと考えています。

通常、警告を発する際に、
 「2つの警告主旨1つの情報に埋め込む」ことは
たいへん緻密で計算された表現が重要になります。
ご法度ではありません。ですが、慎重な配慮が必要です。

 「1つの警告主旨1つの情報に埋め込む」場合は、
大きな問題が起こることはありません。

情報を取り違えたり、誤解したり、とっさの・急を要するときだからこそ
 情報の受け手が最初に” 思いついた方を真実な情報内容として認識したり、
 ”情報の受け手にとって都合のよい” 方を真実な情報内容として認識しようとしたり、
たいへん危ない行動や残念な結果を招くおそれがあります。

気象庁は、
最大震度5弱以上または最大長周期地震動階級3以上が予想された場合とした理由」として、
「震度5弱以上または長周期地震動階級3以上になると顕著な被害が生じ始めるため、事前に身構える必要があるためです。」
と説明しています。(出所:気象庁

然は然り乍ら、
2つの警告主旨1つの情報に埋め込んでしまったことと、
事前に身構えることの原因理由が
 「震度5弱以上の強い揺れ」なのか
 「長周期地震動の階級3以上」なのか
 「ここは震源から ”遠い” のか ”近い” のか」
 「長周期地震動対策行動か強い揺れ対策行動か」
といった対応策の識別と検討に関して、
受け手側がしなければならないことが現状たくさんあるという状態です。
当事者が1人個人であればまだしも、
当事者が高齢者医療機器を装着している人ハンディキャップをもつ人小さい子どもと一緒だった場合に、さらに判断を複雑化させてしまうことになりかねません。

現状ですと、
 ▶多くの重要な情報処理過程(判断プロセス)を、
 ▶受け手側に委ねてしまっている
といえるのではないでしょうか。

情報の受け手側としては本来、時間を、身の安全を守るために最大限使用したいものです。

そうした情報提供(警報の発表)となっていく形で今後改善されさらに進化ていくことを期待しています。

おわりに・・・

今回は「緊急地震速報に追加された『長周期地震動』」をご紹介しました。

震度「階級」と長周期地震動「階級」の色対応は、今後問題視されるかもしれません。
かつて、防災気象情報の警戒レベルでも起こった論争としてもおなじみの方もおられるでしょう。
しかしながら、このプロセスは、時代が進歩する上では必要なステップなのかもしれません。
(相応の観点があれば、そういった経験値を加味してプロセスを進めていくことも可能でしょう。)

「色」をみて「大丈夫だと思った」ことで発生する被害とは?
警報主旨」の理解を取り違えたときに発生する被害・悲劇とは?
警告主旨」の正確なところを確認する手間をかけたがために発生する過酷な状況とは?

そのリスクの高さは
  ▶「固有周期」と
  ▶「共振」と
  ▶「情報の受け手側」
  ▶「情報の送り手側」
に解決に向かうヒントが隠されていると筆者は考えています。

「高層ビル」でも
「ココは13階だから大丈夫」だとか、
「前回の東日本大震災では大丈夫だったから今回も・・・」とか、
「階級1なのに死者が発生した」
「数度の地震発生のある段階で崩壊が発生した」や、
「たぶん長周期地震動の方だと思う。ここは2階建ての一軒家だから大丈夫」
・・・
など。

「既存不適格」の建築物も相当数あることから、
発生する被害の態様はとても多様だと考えています。

同じ地震災害は2度と起こることはありません。

災害経験が、
経験したことで被害に結びついてしまうような方向(「逆機能論」思考)ではなく、
普遍性や一般化された法則をもった課題解決策の導出になっていくことを期待しています。

ぜひ、長周期地震動の警戒が追加された緊急地震速報を、普段の何気ない会話の中に織り交ぜて話題にしていただければ幸いです。
知った「今がスタートライン!」です。

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