今回は「ヒートショック」の話題です。
その中でも、「高齢者」と「お風呂」という場面を想定しています。
ここでは、消費者庁からの注意喚起をもとにご紹介します。
高齢者の入浴中の事故・・・統計データから
高齢者の「不慮の溺死」の推移(2008年~2019年)
図表1は「高齢者の『不慮の溺死及び溺水』による死亡者数の年次推移」です。
2019(令和元)年の家及び居住施設の浴槽における死亡者数は 4,900 人になります。
2008(平成 20) 年の 3,384 人と比較すると約 10 年間で約 1.5 倍に増加しました。
2011(平成 23) 年以降、「交通事故」による死亡者数より多くなっているのがわかります。
高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による発生場所別死亡者数(2019年)
図表2から高齢者の自宅など居住施設の浴槽における死亡者数は、
不慮の溺死事故の71%を占めています。
入浴中の急死の中には、心疾患や脳血管障害等、溺水以外の病死などがあります。
そのため、実際に発生している入浴中の事故は更に多いのではないかと推定されています。
高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による発生月別死亡者数(2019年)
図表2は「高齢者の浴槽内での不慮の溺死及び溺水による死亡事故のうち発生月別のもの」です。
確認されたものだけでも、
▶全体が4,738 件で
▶高齢者の入浴中の事故は、1月がピークに 11 月~4月、
▶特に冬季に多く発生
しているという傾向はぜひおさえておきたい内容です。
寒さという環境要因が身体に及ぼす影響の傾向として捉えると良いでしょう。
高齢者の入浴中の事故の事例
2019(令和元)年 12 月、80 歳代女性、死亡の事例
「入浴して 20 分後くらいに様子を見に行くと浴槽内で意識が無かった。
手動による追い炊き式の風呂釜であり、お湯はかなり熱い状態であった。
顔面・前胸部・背部・臀部・大腿部後面にⅡ度8の深熱傷があった。」
2019(令和元)年 12 月、80 歳代男性、死亡の事例
「自宅で入浴中、追い炊きをした際に高温になり過ぎたが、
浴槽から出られずに熱傷を受傷した。家族が患者を浴槽から救出した。
右下肢及び左下肢に熱傷Ⅱ度・熱傷範囲 10%あり。
背部に熱傷Ⅱ度・熱傷範囲3%あり。
右上腕部及び左上腕部に熱傷Ⅱ度・熱傷範囲1%あり。」
【対処法】入浴中の事故を防ぐために!
総論
入浴中の事故は、持病がない場合や前兆がない場合でも起こるおそれがあります。
「自分は元気だから大丈夫」と過信することは危険です。
「自分にも、もしかしたら起きるかもしれない」と意識することが大切です。
また、本人だけでなく家族や周囲の方が一緒に注意することも大切です。
さらに、寒さが厳しくなると温度差により事故のリスクが高まります。
気象予測情報からヒートショックのリスクを想定しておくのが無難です。
入浴前に脱衣所や浴室を暖めよう
高齢になると血圧を正常に保つ機能が低下しています。
血圧は、寒暖差などで急激に変動します。
(寒さで血管が収縮→血圧上昇へ)
(湯船で血管が広がる→血圧低下へ)
血圧の変動があると、脳内の血流量が減り意識を失うことがあります。
意識がもうろうとする場合もあります。
これが入浴中に起こると、
湯舟の中で意識が遠のいていってしまうため、
溺水事故につながってしまうと考えられています。
血圧の変化が大きくなってしまうリスクを抑えるために、
入浴前には脱衣所や浴室を暖めておくことは大切です。
部屋間の温度差をなくすために居室だけでなく、家全体を暖かくすることが本当は重要です。
二重サッシにするなど、断熱化も有効かもしれません。
とはいっても、光熱費の心配や、リフォームへの費用など難しいかもしれません。
そこで、できる範囲で浴室内を暖めたり、温度差が小さくなるような工夫していきましょう。
湯温は 41 度以下、湯につかる時間は 10 分までを目安に
消費者庁の資料では、その危険性として
「42 度で 10 分入浴すると体温が 38 度近くに達し、高体温等による意識障害で、浴槽から出られなくなったり、浴槽内にしゃがみ込んだりして溺水してしまうおそれがあります。」
とありました。
42℃という湯温は、けっして高くはないのかもしれませんが、
冷え切った脱衣所や浴室を通ってからの42℃ということで、
危険性が高まるといえるでしょう。
「湯の温度は 41 度以下、湯につかる時間は 10 分までを目安にし、長時間の入浴は避けましょう」
というアドバイスが記載されていました。
浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう。
入浴中には湯で体に水圧がかかっています。(静水圧のこと)
その状態から急に立ち上がると体にかかっていた水圧がなくなり、
圧迫されていた血管は一気に拡張します。
脳に行く血液が減り、脳が貧血状態になってしまうことで、
一過性の意識障害を起こすことがあります。
そうなると、浴槽内に倒れて溺れる危険があります。
浴槽から出るときは、手すりや浴槽のへりを使ってゆっくり立ち上がるようにしましょう。
傾向として、
熱い浴槽内からいつものように立ち上がった時に、
めまいや立ちくらみを起こすような人は、
特に注意が必要です。
食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴は避けましょう。
食後に血圧が下がりすぎる食後低血圧によって失神することがあります。
食後すぐの入浴は避けましょう。
また、飲酒によっても一時的に血圧が下がります。
飲酒の前に入浴するように心がけましょう。
▶飲酒後はアルコールが抜けるまでは入浴しないようにすることが大切です。
▶体調の悪いときはもちろんのこと、
▶精神安定剤、
▶睡眠薬等
の服用後も入浴は避けましょう。
入浴する前に同居者に一声掛けるというコミュニケーションをとりましょう。
入浴中に体調の悪化等の異変があった場合は、周囲の人に早期発見してもらうことが重要です。
そのためにも、入浴前に周囲の方に一声掛けてから入浴するようにしましょう。
また同居者は、高齢者の入浴中は特に動向に注意しておきましょう。
▶長時間入浴している、
▶音がしない、
▶突然大きな音がした、
などの異常に気付いた場合には、ためらわずに声を掛けましょう。
本来であれば、音がしないときほど、
入浴している人に同居者はすぐさま声掛けやコミュニケーションをしてほしいのです。
これは、高齢者だけでなく、子どもや、貧血傾向の人や、心臓・脳血管、高血圧など生活習慣病の持病を持つ人に対しては特に、積極的に行ってほしいのが筆者の願いです。
1万日(30年くらい)間は、何のトラブルもないのかも知れません。
しかし、
1万1日目に予期しない出来事が起こることがあります。
その予期しない出来事が
→不慮の事故となってしまうのか、
→ヒヤリハットの出来事で食い止められるのか。
そのターニングポイント(分岐点)は、
コミュニケーションを生活習慣防災として取り入れているかいないかにかかっています。
ぜひ、お互いに面倒なときもあるかも知れませんが、共助でよろしくお願いします。
その出来事の予防のタイミングを考える際には、
「【第37回】危機管理「竜巻理論」(Tornado Model!)」を参照ください。
事故発生時の対応方法
浴槽でぐったりしている人(溺れている人)を発見したら可能な範囲で対応しましょう。
1.浴槽の栓を抜く。(少なくとも、必ず口や鼻は水面上に出るようにしてください!)
大声で助けを呼び、人を集める。
2.入浴者を浴槽から出せるようであれば救出する。
(出せないようであれば、蓋に上半身を乗せるなど沈まないようにする。)
直ちに救急車を要請する。
3.浴槽から出せた場合は、
肩をたたきながら声を掛け、反応があるか確認する。
4.反応がない場合は呼吸を確認する。
5.呼吸がない場合には胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始する。
6.人工呼吸ができるようであれば、
胸骨圧迫 30 回、人工呼吸2回を繰り返す。
できなければ胸骨圧迫のみ続ける。
以下は、参照記事です。心肺蘇生法の動画を見ることができます。
参照:心肺蘇生 一連の流れ(総務省消防庁)
おわりに・・・
今回は「ヒートショック」が原因で発生する、浴槽での事故リスクを紹介しました。
消費者庁の資料をもとに、少し加筆しながら説明しました。
年齢を重ねると、身体の一定を保つ機能は次第に衰えてしまうものです。
この事実は謙虚に受け止めておきたいものです。
これまで【第43回】と【第48回】では高血圧について触れましたが、
血圧の変動が身体に及ぼす影響と、
その影響によって、今そこにいることで、今そこでしていることで、
状況によってはたいへん大きな事故が発生してしまうことを説明しました。
「入浴」というタイミング、
「起床」して「布団・ベッド」から出た直後など、
▶「寒い→暑い」
▶「熱い→寒い」
の温度変化を小さくしていくよう心掛けていきましょう。
【対処法】でもいくつか紹介していますが、難しい場合もあるかも知れません。
入浴だけを考えても、入浴の時間だけは暖房器具を活用してそのリスクを下げるような試みは大切だと筆者は思っています。
それぞれの環境にあったさまざまな取り組みをお願いします。
知った「今がスタートライン!」です。