今回は「竜巻理論と糖尿病」です。
「【第37回】危機管理『竜巻理論』」で竜巻理論をご紹介しました。
「【第40回】一次予防のススメ」で糖尿病をご紹介しました。
今回は、糖尿病を危機として捉え、
危機管理理論の「竜巻モデル」をもとに検証を試みるものです。
竜巻モデル(”Tornado Model”)
竜巻理論とは(復習)
図1のように、災害(ハザード)を横軸、時間を縦軸として、
ハザードの大きさに比例して発生時間が漸次経過していく、
ハザードの大きさに比例して対処に要する時間が比例する、
ということをご紹介しました。
「ハザードの大きさ」と「発生事態」の相関関係(復習)
また、図2では「ハザードの大きさ」と「発生事態」の相関関係を示しています。
事象・事故・事態の区分には、取り扱う業界やジャンルにより異なりますが、
一般的な深刻度スケールとして表すことができることも説明しました。
「トルネード理論」と「糖尿病」
「トルネード理論」に「糖尿病」を当てはめると・・・
図3のように、糖尿病の病態の進行度と、
「トルネードの法則」を当てはめることができます。
(上記の順序で必ずしも進行するわけではありません。)
(気づくのが遅れることで、合併症が進行して気づく場合もありますので念のため。)
▶1:生活習慣が不適切な状態です。
・暴飲暴食・食べ過ぎ・飲みすぎ
・睡眠時間が遅い・短い・不規則
・運動習慣が無い・少ない・十分でない
の状態と言えます。
次第に検査結果が異常値に近づいている段階です。
身体のサインとしては、太ってきた、肥満になった、…があるでしょう。
▶2:血糖値が高値の状態です。
いわゆる身体が血糖を正常状態に維持できない状態に入ります。
正常と異常の間にある境界領域の状態になります。
多くは自覚症状もなく無症状です。
▶3:糖尿病の初期の状態です。
症状は軽度であったり、進行が緩徐(ゆるやか)のため、自覚されない場合もあります。
▶4:糖尿病の初期から進行した状態です。
何らかの自覚症状が出現していますが、
気づかれないままに進行を放置しているケースもあります。
ここではインスリンによる治療が必要ない段階を例にしています。
▶5:糖尿病としては進行している段階です。
何らかの自覚症状が出現してようやく受診したときには、
すでに合併症が存在しているケースになります。
ここではインスリンによる治療は高血糖是正のために必要ですが、
インスリンの非依存状態の段階を例にしています。
ここで症状の一例をご紹介します。
・三多一少(「さんたいっしょう」と読みます)
多食、多飲、多尿、体重減少
・飛蚊症(目の前に糸くずのような「浮遊物」が見える症状)
・足のしびれ、足の感覚鈍麻(感覚がにぶくなること)
▶6:重度の合併症の段階です。
目の合併症では、眼内出血や網膜剥離を呈します。(糖尿病網膜症)
腎臓の合併症では、慢性腎不全の状態に進行します。(糖尿病腎症)
神経障害の合併症では、末梢血管病変の状態に進行します。(糖尿病足病変)
ここではインスリンによる治療が必要となり、
インスリン依存状態、つまり、インスリン療法が生存に必要な状態としています。
▶7:合併症が進行してしまった段階です。
治療が奏効(効き目がある)する場合は階層を6で維持できたかもしれません。
しかし、治療が奏効しない場合は、段階7に進行するという意味です。
目の合併症では、「失明」となります。
腎臓の合併症では、「人工透析」となります。
神経障害の合併症では、「足趾」(足の指のこと)や「下肢」を「切断」することになります。
▶8:階層7の次に訪れるという順序は必ずしも当てはまりません。
生死の分岐点となる症状を呈する段階は、
加齢、生活習慣とともに、遺伝的因子をもって相互作用で規定されます。
そのため、階層8が突然に訪れることもあります。
その階層8への対処が奏効しない場合には、破局事象に進んでしまうことになります。
階層8では、医療従事者は介入できますが、
階層9に進む病態である場合には、残念ながら医療従事者では手に負えない段階と言えます。
「トルネード理論」をもとに「糖尿病」の予防災を検討してみよう!
そこで、トルネードモデルをもとに糖尿病の予防を検討してみましょう。
▶1:階層2に進まないためには、
生活習慣の改善や見直しが大切であることがわかります。
職場で行われる定期健康診断や、
献血を利用した血液検査の活用により、
現状の採血結果を知ることはとても有効な一次予防と二次予防になります。
▶2:階層3に進まないためには、
階層1での取り組みが基本になります。
健診や検査で異常値が確認され始めたら、
かかりつけ医に相談をしてみることをオススメします。
▶3:階層4に進まないためには、
階層1での取り組みをたいへんですががんばることです。
伴走者がいるととても効果的に取り組むことができるのですが、
伴走者がいない場合でも、主治医(かかりつけ医)を頼って大丈夫です。
身近な人で医療従事者がいれば相談することも良いでしょう。
一人で抱え込む必要はありません。
頼ることを大切にしてください。
▶4:階層5に進まないためには、
階層1での取り組みを性根を入れて一生懸命に実践することです。
本当に後戻りできる少ない機会の階層です。
階層3で触れた伴走者や相談者に頼ることのほか、
気持ちを入れ替えて価値観を変える意気込みで取り組むことをオススメします!
内服治療も始まりますが、
主治医の指示を守って、先生を信じてコツコツと取り組んでいきましょう!
▶5:階層6に進まないためには、
階層1での取り組みを根性を据えて覚悟をもって実践を試みましょう。
階層3の伴走者や援助者などの協力を得つつ、
階層4の服薬治療をしっかりと取り組みましょう!
健康状態について後戻りできる最後の可能性のある階層になるでしょう。
ここも重大な分岐点(ターニングポイント)です。
人生100年とした場合、人生後半や最後のこともいろいろと考えてしまうことでしょう。
どうかこの段階でハザードを縮小方向へと向かうベクトルにしていただきたいです。
そのためにも先生の指示内容を大切にして生活に取り込んでください。
▶6:階層7に進まないためには、
階層1の取り組みが適用できない場合が出てきます。
生活習慣の改善や積極的な定期の検査では通用しない段階です。
つまり、食事の制限が出てきたり、
生活上の注意が発生してきたりします。
この階層では重度の合併症も出現していることが疑われますから、
日常生活の質を低下させないように配慮しながら、
病状がこれ以上悪化してしまわないように、
多少の生活の質の変化を受容しながら、
主治医の指示に基づき生活の見直しと治療への参加をお願いします。
▶7:階層8以上に進まないためには、
ひとつひとつ発生する危機を治療に当たる医療従事者とともに乗り越えていくことになります。
そして、家族とともに生活パターンの変化にも対応して生活を送ることになります。
つらいことはありますが、けっして悲観的にならないでいただきたいです。
治療への積極的参加は、その病状の進行速度を遅らせることができます。
主治医の説明内容だけでなく、看護師、家族などの言葉を大切にしてください。
そういった、心を入れ替えるような取り組みの変化が、
階層8以上に進むことを予防してくれる可能性があります。
▶8:階層9との紙一重の段階になります。
生死の狭間をさまようことがあるかも知れません。
この段階では、先を見通すことがとても難しいケースがあります。
いろいろと受け入れなければならない段階、
いろいろと準備をしなければならない段階と言えるかもしれません。
この階層であることを知ることで、
必要ないろいろな受容や準備の導出に役立てていただきたいです。
おわりに・・・
今回は「トルネード・モデル」を用いて「糖尿病」をリスク分析しました。
進行の度合いやその階層に応じた準備の理解・案出など、
想定をすることや危機予測のツールとしての活用方法を解説しました。
糖尿病はたいへん恐ろしい病気のひとつですが、
対処の段階がいろいろなところにあることもわかっていただけたのではないでしょうか。
いろいろなレベルや取り組みがあって、そして、改善に向けたヒントがあるということです。
どの階層も分岐点(ターニングポイント=「減災へのキッカケ」となる実践方法)
があることもわかりました。
そういった「キッカケ」を見つけるひとつのツールとしてぜひ活用ください。
知った「今がスタートライン!」です。