今回は「非常時リーダー」です。
リーダーの資質や能力を育てるためのお話しはたくさんあります。
ここでは、筆者が導き出した「平常・非常業務適性の習熟度」をご紹介します。
平常時や非常時の対処をもとに、業務適性のタイプを分けたものです。
業務の平常時と非常時と緊急時
平常時とは
平常とは、いつもと同じであること。ふだん。(出典:goo国語辞書,デジタル大辞泉)
つまり、平常時とは…
きのう、先月、1年前、…前回、過去と同じ、繰り返し行われている業務を今日も行っているという意味でもあります。
業界や団体や組織によっては、定められた業務の範囲を、
今日も決められた手順と要領に基づいて行っているという意味にもなります。
新たな判断や決定のプロセスを経ることのない業務のことでしょう。
(承認や報告という手続きはある場合があります。)
非常時
非常の事態が起こった時。国家的、国際的に重大な危機に直面した時。
(出典:goo国語辞書)
つまり、非常時とは…
平常時とは状態を異にする状況になるでしょう。
戦争や災害などを例にするケースが多いようです。
平和なときを平時としますから、有事(戦争)や各種災害は非常時になるでしょう。
緊急時
重要で、事が差し迫っているとき。緊急を要する機会。緊急の時。
(出典:weblio辞書)
緊急で対処が必要なとき。平常時・非常時の考慮要件なし。
(出所:筆者プロフィール)
つまり、緊急時とは…
平時・非常時にかかわらず、緊急の対応が必要となる状況になるでしょう。
小括
平常時にも緊急時は発生します。
非常時にも緊急時は発生します。
厳密にわけることは難しい説明が必要かもしれません。
しかし、平常時から非常時に切り替わるきっかけや、
緊急時として対処するときのイベントの内容は、
それぞれの業界や団体や組織で必ず想定されています。
また、
平常時の態勢で緊急時に対処するときもあれば、
非常時の態勢に移行して緊急時の対処にあたることもあります。
各種法令や手続き法や規定や規則等でその手順が定められている組織は一定数あります。
2022年10月29日(土)22時15分ごろ、韓国ソウル市梨泰院で発生した群衆事故を例にとると、
①平常時(所轄の警察署はデモ行進に対する警備態勢をとっていた。)の態勢で、
事故発生直後に梨泰院の緊急時対応したという捉え方
②非常時(所轄の警察署はデモ行進に対する警備態勢=非常時体制という扱い)の態勢で、
事故発生直後に梨泰院の緊急時対応したという捉え方
③平常時(所轄の警察署はデモ行進に対する警備の終了後)の態勢のまま、
事故発生直後に梨泰院の対処を平常時対応したという捉え方
当局の体制の状況が明らかになっていないため断定はできません。
一方で、18時34分の第一報を当局が覚知して以降、群衆管理のための対応がとられていないとみられる状況が次第に明らかになってきています。
このことから、一連の事態に対して、非常時モード・緊急時モードのいずれでも
対応してなかった可能性があります。
以上のように事態対応の体制を分解してみていくことができます。
こういった事態対応にあたり、重要になるのが、
「非常時リーダー」の存在です。
業務適性型<平常と非常>
業務適性型の2つのタイプ
図1は、「平常業務と非常業務適性の習熟度曲線(成長曲線)」です。
筆者が、経験則や戦史などをもとに導き出した習熟度曲線です。
縦軸は、習熟度(成長度)(C:Competence)をあらわします。
さらに、平常時と非常時にわけています。
横軸は、時間(T:Time)です。
時間の経過とともに習熟度がどのように成長変化をたどるのかを表しています。
「適性顕在化分岐点(Aptitude Manifestation Branch Point)」とは、
その人が、平常業務型、非常業務型のどちらの適格性を有するかが判明する時点のことを言います。
教育を担当したことがある人はイメージしやすいかもしれません。
教えていないこと、非日常に直面したときなどへの対応が、
冷静さ、柔軟性、判断力(情報力、思考力、決断力、評価力…)、総合判断力、機転…、など
に秀でている人材がいるという感覚を覚えた経験もあるのではないでしょうか。
その感覚を感じた段階のこと、
そのような頭角を現し表面化した時点を適性顕在化分岐点と言います。
(※非常時リーダーの資質については、紙面の関係上別の機会に譲ります。)
この顕在化分岐点以降は、
非常業務型と平常時業務型の2つのタイプに分けることができます。
①非常時業務型
非常時の業務適性は、2つに分けています。
▶A:非常業務指導型(有事リーダー)
▶B:成功体験固執型(有事管理職)
▶A:非常業務指導型(有事リーダー)
これは、非常時・有事のリーダー資質を有する人です。
入職後、時間の経過とともに頭角をあらわします。
マンネリ化の波やみる目のない上司にあたることもありますが、
非常時対応に必要なノウハウを蓄積していける人です。
▶B:成功体験固執型(有事管理職)
これは、成功体験を経験してしまうことで、そこに固執する人がいます。
非常時対応の適性はあるのですが、さまざまな事態に対応するだけの能力がない、
あるいは、成功体験が次の新たな事態対応の敗因になるリスクをはらむ人材です。
②平常時業務型
平常時の業務適性は、2つに分けています。
▶C:平常業務能動型(平時管理職・経営職)
▶D:平常業務受動型(両時メンバー)
▶C:平常業務能動型(平時管理職・経営職)
これは、平常時のリーダー資質を有する人です。
入職後、時間の経過とともにパフォーマンスを発揮します。
能動型なので、たいへん積極的・活発に動きます。
経験したことへの次の成長度がとても大きいタイプです。
一方で、マンネリ化の波や、今あるやり方や常識の中でのみ活躍できる人材になります。
新たな提案もできますが、それは視野を極限まで広くとれば、
あまり新しいものとはいえない提案になっていることがあります。
平常時は、時間と経験の蓄積により実績をあげることができますが、
新たな局面への創造や対応への能力が欠如しているタイプです。
このタイプが組織の経営陣・管理職層にいる場合、
相当に検討し準備されたたリスクの事例と、
対処訓練を繰り返しておかなければ、
いざ事が起きたときには、たいへんな犠牲を伴うことになり得るでしょう。
▶D:平常業務受動型(両時メンバー)
これは、平常時や非常時(有事)対応のメンバー(スタッフ)になります。
「受動型」と言っても、ネガティブなイメージではありません。
与えられた手順や内容を着実かつ完全に遂行することができ、
目標達成に向けて一途に進んで行けるタイプの人材です。
もちろん、言われるまで動かない人もいるかもしれませんが、
ここでは、そういった人材のことを意味していません。
このタイプが組織の経営陣・管理職層にいる場合は、
特に参謀タイプの能力をもった人材の存在が重要になります。
リーダーとして決断や指導ができるようなフォローができるような参謀のことです。
適性の見極めと育成
表1は、「パレートの法則に基づく業務適性の構成人数」(筆者作成)です。
白紙的に「80:20の法則」をあてはめたものです。
入社時に100人いたとして、
そのうち
・80人が平常業務型
・20人が非常業務型になります。
平常業務型80人のうち
・64人が「平常業務受動型」(平常時・非常時のスタッフとして活躍)
・16人が「平常業務能動型」(平時の管理職・経営職として活躍)
非常業務型20人のうち
・16人が「成功体験固執型」(非常時の管理職として活躍)
・4人が「非常業務指導型」(非常時のリーダーとして活躍)
できることを意味しています。
100人中4人が、非常に困難な局面でも対処していけるような、
有事リーダーとしての資質があるということをあらわしています。
みなさんは多いと感じるでしょうか?
少ないと感じるでしょうか?
筆者は、これだけをみるとたいへん多いと感じています。
ここに、現実社会のマイナス要因が絡むことで、もっとその適格者数が減少することになるでしょう。
それでは、どのように見極めて育成すればいいでしょうか?
重要なことは、有事リーダーの卵を見極める者が、
▶①有事リーダーとしての適格性を有すること
▶②有事リーダーとしての経験を有すること
▶③有事リーダーとしての能力向上を不断に行っていること
▶④能力評価にあたり、客観的であること(個人的な感情を持ち込まないこと)
▶⑤平常業務遂行能力と非常業務遂行能力の違いをふまえた評価システムがあること
▶⑥平常業務遂行能力と非常業務遂行能力の違いをふまえた教育体系があること
などがあります。
①は、適性がない者による対象者の適性評価はあり得ないという常識に基づきます。
②は、大なり小なりキャリア形成の中で経験をしていなければなりません。
③は、非常時・緊急時対応は機会が少ないですが、教育・研修・訓練は∞です。
④客観的な評価とは、個人的な好き・嫌い・気に入らない・生意気などのような主観がないこと。
⑤平常業務遂行能力を評価するシステムは広く構築されています。
昇進試験や勤務評価も平常に該当します。
非常業務遂行能力の評価ツールを開発されていることが重要です。
⑥多くの教育体系は平常時を対象としています。
緊急時や非常時のための教育体系は、ほとんど見かけませんし、経験がありません。
有事を想定する教育体系は防衛当局では存在しています。
しかし、多くの業界や組織では、平常非常の違いには踏み込んでいません。
年1回などの防災訓練はここの教育体系に該当しません。
そういった意味で、平常非常の違いをもとにした教育体系がとても重要です。
育成にあたっては、非常業務の適性者をしっかりと認定することです。
対象者が、どのレベルの役職に就くかも重要ですが、
人事管理として、重要な局面での対応にあたっていけるような、
配置とキャリアパスを準備することが必要でしょう。
おわりに・・・
今回は「非常時のリーダー」をテーマにしました。
白紙的には、4%の人材がそのような適格性をもっていることをご紹介しました。
しかし、残念なことに4%もいないのが現状かも知れません。
現実社会には、「非常時を想定した環境構築が未熟」であることがその要因として挙げられます。
平常業務の達成度が高い者が評価される仕組みであることや、
非常時対応をした者を評価する者が、評価者としての適格性をもってない可能性が高いこと、
自分よりパフォーマンスの良い部下に対して良い感情をもたない上司がいること、
ジョブローテーション(人事異動の恒例)が固定化されていること、
入庁後、組織体質に失望して適格性保有者が転職してしまうこと、
入職後、活躍ややりがいの類いの希望に出会うことができず離職すること、
そもそも、適格性保有者を正当に評価する仕組みがないこと
などがあります。
平時には大きな問題として表面化することはありません。
しかし、ひとたびイベントが起こると一挙に破局事象へと事態が進展してしまうことになります。
(【第37回】危機管理「竜巻理論」参照)
当局が当局なら、状況はたいへん深刻になってしまうでしょう。
ここで注意が必要です。
非常時リーダーとは、非常時対応に長けた人材であるだけであって、
偉いとか、雲の上の存在とか、そういった特別な存在ではないということです。
あくまでも、非常時を淡々と処理してくれる人材という受け止めを読者にはお願いします。
そうは言いましても、
非常時対応に長けた人材は平常時パフォーマンスも良いコトが多いです。
ただし、ズバ抜けて平常時パフォーマンスが高いわけではない場合も多いです。
そのため、平常時リーダーにスポットライトが当たることで、
非常時リーダーが登用されていくチャンスに制約が生まれてしまう。
そういった状態は、十分に起こり得ることでしょう。
先ほどは、群衆事故を例にあげました。
コーポレートガバナンスや災害や武力攻撃事態や緊急対処事態などの極めてレベルが高いイベントでも同じようなことを想定することができます。
ぜひ、非常時リーダーの育成を進めていただければと思います。
知った「今がスタートライン!」です。